『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>ことの距離感と興味

2020.12.2


『乃木恋デイズ』と今泉映画近作の頻出テーマ

──12月6日までセブンイレブンアプリで公開されているショートムービー『乃木恋デイズ』では監督・脚本・編集を務められたそうですね。これもまた映画の域というか……クオリティが高いですよね。

今泉 ほんとこれはがんばり過ぎてしまったかもしれません。CMというよりは短編映画のモチベーションで撮りましたね。まさかの堀さんの卒業とのリンクなど、いろんなことが起きて多少混乱していますが。

7本のストーリーがあるんですけど、「この会話のこのやりとりは映画に取っておきたかったな……」と思う部分がたくさんありますね。中でも5話目が、個人的には別次元にあると思ってて。

──賀喜遥香さん演じる作家が伝記か何かを書いている人で「自分の“今”の人生を費やしてまで、“過去”に生きていた人のことを調べたり、ひたすらその人のことを考えたりすることに意味はあるのか」と悩む、という導入ですよね。それに対して、梅澤美波さん演じる編集者が的確な答えを提示する。

今泉 すごくマジメに脚本を書いてるので、もしかしたら大スベりしてるかもしれない。でも、賀喜さんと梅澤さんの空気感とか演技も含めて、ちょっと異質なものになったなとは思いますね。

実は、「作家と編集者」というモチーフは最近よく書いてる題材で。「映画監督」と「映画館を運営してる人」とか、「映画」と「評論」とか、実はその差ってあんまりないと思ってるんですよね。「0か1か」みたいな話で言うと、「0を1にする人」がいなければできない仕事ってたくさんあると思いますけど、でも同じくらい、それぞれに意味のある仕事だと思ってて。

映画をたくさん撮れるようになったり、ようやくこの仕事で食えたりするようになってきて思うのは、実力と同じくらい運とか出会いの存在が大きい仕事だっていうこと。今まで一緒にやってきたけど映画を撮れてない人と、自分との間に果たしてなんの違いがあるんだろうって思っちゃうんですよね。それぞれに何か役割があるんだと思っています。

今気づきましたけど、今回の作品で賀喜さんが発する「若いのに何やってるんだろう」みたいな不安感は、ちょっとアイドルという職業のメタになっているのかもしれません。

なぜ今泉作品の役者はあれだけ魅力的なのか

──「アイドルを撮ること」と「職業俳優を撮ること」は何か違いがあったりしますか?

今泉 こちら側の演出の仕方とか意識の面では別に何も違いはないですね。逆に彼女たちの、アイドルであるからこその自然さとか、まだ演技についてあまり知らない感じは俳優にはない魅力だと思います。

やっぱり学んできた人の良し悪しとか、監督との相性はどうしてもあるので。今回の『乃木恋デイズ』では比較的アイドル歴が短い4期生のメンバーが数名出演していて、演技が上手か下手かはわからないですけど、やっぱり相当に魅力がありましたね。

──演技経験が少ないという個性を尊重するような演出をされるのでしょうか?

今泉 というより、そもそもあんまり演出をしません。あれこれ演技指導はせずに、あまりにもズレてたり意味を理解してなかったりしたら言いますけど、基本的にみなさん演技はできるので言うことがないですね。役者だろうがアイドルだろうがそのままで魅力的なんだったら、それは活かしたほうがいい。

その魅力と相反する芝居をつけて、全部コントロールしようと思ってやっていくと、現場の空気も濁っていきますしね。それはやる必要がないと思ってます。みんなありのままで魅力的ですから。


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