映画『ミッドナイトスワン』で草彅剛が見せた日常の可能性──女でも男でもない“いちばん最後の顔”

2020.9.24

(c)2020 Midnight Swan Film Partners
文=相田冬二 編集=森田真規


草彅剛がトランスジェンダーの凪沙(なぎさ)役に挑んだ映画『ミッドナイトスワン』が2020年9月25日に公開される。

かつて『楽天エンタメナビ』でSMAPの活動についての週間批評「Map of Smap」を連載していたライターの相田冬二氏は、この映画における草彅の演技を見て「人は、無数のオンと、いくつものオフを生きている」と思ったという。

『ミッドナイトスワン』から、“草彅剛”という稀有な俳優の魅力に迫る。


緊張とリラックスが同居した、草彅剛にしか表現できない顔

人は、無数のオンと、いくつものオフを生きている。

『ミッドナイトスワン』の草彅剛を見ていて思うのは、まず、そのようなことである。

ひとまず、オンを社会的な対応、オフをプライベートなありよう、としておこう。誰かと相対しているときと、ひとりでいるときとでは、人は佇まいが違っている。屋外にいるときと、自分の部屋にいるときでも、まったく異なる。

バイオリズムも、気分も、感性も、神経も、たぶん、別種の状態にある。

私たちは、ほとんど無意識に、この切り替えを行っている。それは自動化されたチェンジであり、他者を前に緊張しているとか、孤独にリラックスしているとか、もはやそういうことではない。ただ、当たり前に違っているのだ。

草彅剛は、人間のこうした細部を描写することに長けた俳優だ。『ミッドナイトスワン』では、男性の肉体を有しながら、女性として生きる主人公を演じているから、とりわけ、この能力が映画に貢献している。

映画『ミッドナイトスワン』925秒(15分25秒)予告映像

たとえば、ひどく疲れたときなどは、歩き方も肩のいからせ方も、がさつで、いつもの女性らしい物腰との対比が際立つ。私たちは、その差異を通して、彼女が、外の世界の中で女であろうとしていた真実に気づく。逆に言えば、女としての振る舞いは意識的なもので、だからこそ、尊い。所作にも行為にも、願いや祈りが宿っているということだからだ。

草彅が扮するのは新宿のニューハーフショークラブで働く凪沙

あるいは、彼女の地元、広島の言葉で話すとき。その方言が、かつて男性として生きていた時代の言葉だからだろうか、それとも、方言には性別を超えるポテンシャルがあるからだろうか、広島弁を口にするとき、女性らしさは感じられない。オンのときは、女として振る舞うことが当たり前の彼女が見せる、これはまた別のオンなのである。

凪沙が預かる親戚の娘・一果を演じるのは、本作が女優デビューとなる服部樹咲

誰と話すかによっても、オンは変幻する。親戚の少女を預かることになった彼女は、足早に少女を自分の部屋に連れて行き、そこで暮らすルールを手短に伝えるのだが、その終盤でふっと浮かべた厳しさと慈しみがないまぜになった一瞬の表情において、オンとオフが融合しており、このふたりの根本的な相性のよさが示される。緊張とリラックス。いずれもが同時にある、あの顔は、草彅剛にしか表現できないものだ。

オンもオフも脱ぎ捨てた、原初の相貌を銀幕に刻みつける


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相田冬二

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