のんが語る、表現者として目指す高み 「無敵な気分」と「自分への落胆」が同居する日々

2020.12.19

のんだけが持つ好奇心

「A」の声を担当しているのは中村倫也。のんは、彼と、音声スタッフ、そして自分自身の3人の共同作業によって「A」は生まれたと述べているのではないだろうか。この観点には脱帽せざるを得ない。さまざまな活動を通して、スタッフワークもよく知る彼女ならではの、クリエーションへの眼差しがある。

「『A』の存在によって湧く感情みたいなものは大事にしました。でも、デートに着ていく服を選ぶ買い物のシーンは難しかったです。頭にみつ子は残っているけど、身体は『A』に乗っ取られてる……みたいな。頭と身体が別個になっているので、けっこう手こずりました」

「素晴らしかった」と、そのシーンがいかに自然だったかを伝えると、彼女は「うれしい」と素直に喜びを口にした。みつ子と「A」の会話には電話とはまったく違う距離感と親密さがある、と感想を口にすると、「不思議ですよね。おもしろいですよね」と、自分の作品と役どころに、今もワクワクしている眼差しを見せた。好奇心。のんだけの好奇心がそこにあった。インタビュアーの好奇心も刺激された。

「A」は、なぜ、男性の声なんでしょうか? みつ子は女性なのに。「A」は女性の脳内にいるのに。のんに聞いてみた。

「みつ子はたぶん、『みつ子そのまま』を受け入れない。自分の話をいつまでも聴いてくれる存在として引っ張ってきたのが『A』という男の人の声なのかな。自分が一番やりとりしやすい、扱いやすい部分が表れた。そこは女性的な部分じゃなくて、自分の中の男の人の部分だったんじゃないかと思います」

この洞察。
みつ子は主観的に見えて客観的な女性だ。だからこそ、「相談役」も必要になるのではないか。

「原作を読むと、いろいろ察知しちゃってるし、すごく辛辣に自分のことを見つめているから、『おひとりさま』でいることが一番楽しいんだろうなと捉えました。おもしろいですよね。『A』的な俯瞰で見ている自分が(みつ子には)いるんですよね」

「『もっともっと』と欲張りにも思ってしまう」

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