矢部浩之が語る、相方との30年(2)歳を重ねて辿り着いた「かっこ悪くても“全部見せる”しかない」

矢部浩之インタビュー【総力特集】ナインティナインの30年

文=てれびのスキマ 撮影=石垣星児(インタビュー)、時永大吾
編集=中野 潤田島太陽


1990年、矢部浩之が岡村隆史を誘い、ナインティナインは結成された。デビューから数年で『ぐるナイ』と『オールナイトニッポン』が始まり、誰もが知る人気者になった。テレビの黄金期を躍動しながら、療養も、復帰も、結婚も、失敗も経験した。

その隣には、常に相方がいた……わけではなかった。矢部浩之が、相方・岡村隆史との30年と、これからのナインティナインを考える。


40過ぎて「人間」に戻れた

矢部浩之インタビュー【総力特集】ナインティナインの30年

――結婚や子供が生まれたことは、芸人としての矢部さん自身に何か影響はありましたか?

矢部 めちゃめちゃありました。もう全然飲みに行ってくれないとか子供にデレデレやとか、よく後輩に言われるんですけど、やっと「人間」に戻れたんですよ(笑)。「芸人とは」っていうキャラづけとして、多少は女遊びしとかなとか、朝まで飲まなとか、そういう思いがあったんです。それでイジられてもきたし。

それで結婚して子供できて、しかも男の子ふたり。まるで小さいころの兄貴と自分を見てるようなんですよね。虫取りとか遊びに行ってたら、自分の小さいころをバーっと思い出して、完全にお笑いのことは1回考えなくなったんですよ。こんなことになんねやと思って。でも、焦らなかったんですよね。「俺、今人間なんや」と思って。

矢部浩之インタビュー【総力特集】ナインティナインの30年

高校卒業する18までは「人間」やったけど、芸人を始めた19から「人間」じゃなくなって無理して無理して……。子供できて40過ぎてからまた「人間」に戻って、なんかめっちゃええなあと。楽になった。焦る人は焦ると思うんですよね。たぶんそこを見ないようにして仕事する芸人さんもいるんでしょうけど、僕は「もう完全に1回行ってまえ!」と思って。プライベートがすごく楽しくなった。

今はもう子供が6歳と4歳になったので、だんだん棲み分けができて仕事に戻って来られた感じですね。本当に景色が変わりました。昔、朝まで飲んで朝方に帰ってきて、六本木の花壇にゲロ吐いたんです。ほんと申し訳ない話ですけど。でも長男が生まれてから、朝の散歩に出かけるとき、その同じ花壇を逆から見るんです。ここでゲロ吐いたなあって。景色が真逆になった。そのときに、どっちがいいかと考えたらやっぱり後者で。同じ花が全然キレイに見えました。反省ですよね、あんなキレイな花にゲロ吐いて。

「相方とあんだけ距離ができたのは初めて」

『ナインティナインのオールナイトニッポン』打ち合わせ中の矢部浩之
『ナインティナインのオールナイトニッポン』打ち合わせ中の矢部浩之。奥にいるのは岡村隆史と、作家の小西マサテル

――『オールナイトニッポン』で、コンビの一方が辞めて、かつ復帰したのは前代未聞です。そこに躊躇はなかったですか?

矢部 なかったかなあ。まずはちゃんと謝って、一緒に『オールナイトニッポン』をまた始めなあかんと思いましたね。思ってたけど、オファーがないとそんな勝手なこと、僕からは口が裂けても言えない。そしたら作家の小西(マサテル)さんたちに「戻ってほしい」みたいなことを言われたんです。

それで、相方に「『ナインティナインのオールナイトニッポン』の復活」か、「『岡村隆史のオールナイトニッポン』の終了」かの2択やって言いました。もし終わっても、また別の枠でラジオやらせてもらえるように事務所ともニッポン放送とも話したらいいかと僕は思ってたんですけど、相方は『オールナイトニッポン』にすごいこだわってて。それで番組に復帰することにしました。

『ナインティナインのオールナイトニッポン』打ち合わせ中の矢部浩之
『ナインティナインのオールナイトニッポン』打ち合わせ中の矢部と作家・小西

――公開説教のときに「今あんまりいい感じじゃないやん」と、おふたりの関係性を表現されていたのが、衝撃的でした。

矢部 ナインティナイン見てる人は感じてるやろなと思ってましたよ。言葉にされたらさすがにショックかもしれませんけど。そんだけ距離ができてましたね。会うことも少なくなったし、僕がラジオ辞めて『めちゃイケ』終わって。会うのが「ゴチ」だけになって、あんだけ距離ができたのは初めてじゃないですかね。だから失言がなかったら、まだ距離がどうなってたかはわからない。『ぐるナイ』の30周年記念でコントをやるのも断ってたかもしれないです。「やらんでええやん」って。

歳を重ねて「かっこ悪いお笑いでもええやん」と思えるようになった


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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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