先輩に負けたくない矢部、後輩に負けたくない岡村
――ラジオをまたふたりでやられるようになって、関係性は変わってきましたか?
矢部 そうですね。本番中というよりは、裏でめっちゃしゃべってくるようになりました。あとはプレッシャーというか「あれ言っていいかな?」みたいな確認とか、「これ話していい?」「あれちょっとやめといてくれる?」とか、めっちゃしゃべってきます。“ぽい”なあと思って(笑)。そういう話、今まではなかったので。大前提としていつ何時も「矢部に負けない」という気持ちがあるんで。
――ずっとそれがあるのはすごいですね。
矢部 別モンやし、コンビやのに(笑)。
――岡村さんには、先輩にも後輩にも誰にも負けないっていう思いがあるんでしょうか?
矢部 いや、これが不思議なもんで……僕は先輩方にはその気持ちがあるんですよ。逆に相方は、上の人にはない。だからちょいちょい後輩とモメるんですよね(笑)。僕はいつまで経っても上の人なんですよね。下に対してはない。性格なんですかね。
――「ふたりでLINEをするようになった」というのは、今までは全然なかったんですか?
矢部 一切なかったですね。(相方のLINEを)知ってはいましたけど。ラジオ卒業したいってときも僕はLINEでしましたね。「了解しました」って返って来て、「了解したんや」と思って(笑)。「自分はまだラジオという媒体で仕事をしたいと思っているので」みたいな返事で。“ラジオ”でええやんって(笑)。かっこつけたがるんですよ。
僕がラジオ辞めるのは、大きなサインのつもりだったんです。性格的にあえて「卒業」って言ったんです。なぜなら相方はたぶん、ひとりでまだやりたいだろうから。そういう“枝”を作っておいたんですけど、案の定その枝に掴まって『岡村隆史のオールナイトニッポン』をやるってなって、そこから距離がバーっとできましたね。
歳を重ねて「かっこ悪いお笑いでもええやん」と思えるようになった
――(『めちゃイケ』総合演出の)片岡飛鳥さんは、岡村さんが病気から復帰してから一段と国民的な人気を得ていく感じだったとおっしゃっていました。矢部さんから見て、どう感じていましたか?
矢部 僕は最初、お笑いとして単純にマイナスになると思ったんですよ。でもそこから復活して『めちゃイケ』をはじめほかの番組にも出て……視聴者の「がんばれ!」が、覆いかぶさってきた感じはしましたね。そうなったときに、これはマイナスだけじゃないかもしれないと。やりにくいじゃなくて、むしろありがたいに変わりました。
ただ、公開説教のときにも言いましたけど、僕の中ではまわりが異常に優しくなってることにずっと引っかかってたんです。「これでええんかな?」と。だけど、まわりのスタッフの優しさとかピリピリ感、腫れものに触る感じが、芸歴が長くなってきてるからというのもあるから、わからないんですよね。結果、よかったこともあるけど、そうやって気になるところも増えたのは正直なところですね。
――復帰の前後で、矢部さん自身の岡村さんへの接し方は変わりましたか?
矢部 僕は変わってないかな。だから相方も言うこと言えなかったでしょうね。矢部はあのスタイルやから、みなまで言わへんし、自分から言わへんし、楽屋別がいいし……って。そういう「矢部にもう迷惑をかけたらあかん」みたいなのは相方の中に出てきたと思います。今考えると、そういうのが距離になってたんかなあ……。
でもナインティナインは、全部見せてるなあとは思いますね。見せない芸人さんもいるじゃないですか。うちは全部見てもらって、視聴者の方に泣いたり笑ったりしてもらってる。相方の病気でこれからも全部見せていくねんなって思えるようになりました。だから失言したときも言えたんでしょうね。「こんな人間です」って全部見てもらおうって。相方の病気のおかげで方向性が決まった。かっこつけるお笑いじゃなくて、かっこ悪いお笑いでもええやんかと。
でも相方はかっこつけるんですけどね(笑)。まだ「笑わしたい!」って言うんですよ。もちろんそれは前提やけど、笑われる日があってもええやん、と。見る人の自由やし、ガンガン笑わせてきた先輩方を見ても、今や笑われてる瞬間あんで、と。そりゃ若い人なら歳いったおじさん見て笑うよ。どこで笑ってるかわからへんし。この先、かっこつけずにいい意味で楽に行こうって。
やっぱりあの療養の時期は意外とでかかったと思います。でも人間なんでね、両方持ってるし。もしかしたら強く見えるお笑い芸人さんも、弱いところを隠してやってはるのかもしれへんし。歳を重ねてそう思えるようになりましたね。
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