和田彩花×ミキティー本物、アイドルの“多様性”って何?
「自分のために生きていい」「ゲイだからって諦めなくていい」

2020.10.2
和田彩花、ミキティー本物

文=森 ユースケ 企画=森野広明
編集=田島太陽


「女性アイドルのあるべき姿」ではなく「自分がありたい姿」を力強く発信する和田彩花。男性と女性の市場が明確に分かれているアイドル業界において、「ゲイアイドル」として活動するミキティー本物。

数多のグループ・アーティストが生まれたアイドル文化において、「アイドル」という言葉の幅を少しずつ広げてきたふたりが「多様性とは何か」というテーマで対談を行った。

近年は、ミキティー本物率いる「二丁目の魁カミングアウト」が世界最大級のアイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL』に出演。柏木由紀(AKB48)は「30歳になっても卒業しない」と宣言し、Negiccoのメンバーが結婚してもアイドルをつづける選択肢が支持されるなど、多様性は広がっているように思える。果たして、ふたりはどのような考えを持っているのだろうか?

和田彩花

和田彩花(わだ・あやか)
1994年生まれ、群馬県出身。2009年に「スマイレージ」(のちに「アンジュルム」へ改名)に加入。2019年、アンジュルムとハロー!プロジェクトを卒業。現在はアイドルとしてのパフォーマンスに加えて、「女性のあり方=ジェンダー」や美術に関する情報発信を積極的に行っている。特に好きな画家はエドゥアール・マネ

ミキティー本物

ミキティー本物(みきてぃーほんもの)
ゲイアイドルグループ「二丁目の魁カミングアウト」のリーダー、プロデューサー。自身のグループで作詞・作曲や振り付け、プロデュースを務めるかたわら、振り付け師として私立恵比寿中学、寺嶋由芙、BiSH、フィロソフィーのダンスなど、数多くのアイドルの楽曲を担当している


「ゲイならおもしろいこと言って」と期待されることが多かった

――ミキティーさんは和田さんの活動について、どんな印象を持っていますか?

ミキティー 私はもともと「二丁ハロ(にちょハロ)」という、新宿二丁目のご当地アイドルから始まったユニットで、以前からハロー!プロジェクトの楽曲を踊っていたんです。あやちょ(和田彩花)がスマイレージとして活動を開始したのと同時期に、私も二丁ハロを結成してステージでの活動を始めたから、同期みたいな感じで親近感を覚えていました。

オーディションのときからずっと、勝手に妹みたいに感じて成長を見守ってきたんです。昔はもっとふわふわしたキャラクターだったけど、アンジュルムのリーダーになってからは、メンバーをまとめて自分の意見をはっきり言う素敵な女性になっていったからびっくりしたんだよね。

アイドルグループを卒業してソロになると、言い方が悪いけど、今までのファンに媚びる感じの人もいます。でもあやちょは、自分自身を言葉や音楽に乗せて表現している。ひとりの女性としてすごく素敵だと思います。

――和田さんはいかがですか?

和田 グループアイドルって男女でカテゴリーが分かれていて、それぞれの役割がはっきりしています。でも、世の中にはそのどちらにも与さない、いろんな人たちがいますよね。だから、ミキティー本物さんたちのグループがやっていること、存在自体がとても素敵だと思います。

和田彩花、ミキティー本物
対談取材はZoomにて行った

――おふたりの共通点として、周囲から期待されるジェンダーロール(社会的に期待される、性別による固定的な役割)に対して、息苦しさを感じてきた経験があると思います。それが「アイドル」を自称することにつながっていると思うのですが、いかがでしょうか?

ミキティー 自分がゲイだと気づいたのは、初めて男性を好きになったときでした。当時は中学生で、相手の方はゲイではなかったので、思いを伝えることもできなかった。その後も学生時代、就職してからと、ゲイだからという理由で、仕事を含めいろんなことを諦める人生になっていって。

でも、あるきっかけでステージに初めて立ったとき、「自分はゲイだから」って言い訳をしていろんなことを諦めてきたんだと気づいたんです。この先、ゲイであることが理由で諦めることがない人生にしたいと思って、グループのコンセプトを「ゲイでもアイドルになれる」に決めました。ゲイに限らず、人はなんにでもなれるという意味を込めています。

――過去のインタビューでは、ゲイであることで無理にコミカルに振る舞う苦しさがあったと語っていました。

ミキティー テレビで活躍されているゲイの方々って、すごくおもしろかったり、素敵な言葉をばんばん口にしたりすることが多いですよね。新宿二丁目のテンションが高い、楽しい人たちというイメージもあると思う。その影響もあってか、出会った人たちにゲイだと伝えると、「じゃあおもしろいことを言って」と期待されることが多かったんです。それに応えなきゃと思って無理をして、テンション高くコミカルに演じることもありました。

でも、ゲイだっていつもハッピーなわけではなくて、些細なことで悩んで、つまずくのはみんなと同じ。それをわかってもらえるように、等身大の自分を表現して、音楽活動をしています。

「ゲイの人と友達になりたい」の違和感

――二丁目の魁カミングアウトは主に青春やノスタルジーなど、誰もが抱く感情をテーマに楽曲制作をして、「ゲイ」という要素をギミックとして使っていない印象です。その点は意識しているのでしょうか?

まるもうけ [music video] / 二丁目の魁カミングアウト

ミキティー 意識しているというより、等身大で自分を表現しているだけ。今はゲイとかそうじゃないとかではなく、ひとりの人間として楽曲を作った結果、自然とこうなっている感じです。

あと違和感があったことといえば、アイドルのお友達が多かった時期に、「ゲイだから」って理由で私と仲良くなりたいっていう人が多かったんですよ。女の子には恋愛相談できないし、職業的に男の子とは仲良くなれないからって。そのうちに恋愛相談所みたいになっていって。

頼ってくれるのはありがたいと感じる一方で、話したこともないのに「ゲイだから友達になりたい」って言われると、ちょっと違和感がある。「ミキティーさんと友達になりたい」ならすごくうれしいけど。ゲイだから男と女の両方の気持ちがわかるでしょうって言われると、それは人によるし。

和田 「ゲイの人と友達になりたい」っていう声は、私のまわりでもたくさんありました。でもそう言いながら、同性愛については否定的な人がほとんどだったんですね。これが同世代の一般的な感覚なのかな、それはおかしいんじゃないかなって思ったのを覚えています。

その当時、私も自分のセクシャリティで悩んでいたんです。同性を好きになったこともあったし、25年間、自分のセクシャリティがわからずに、自分がどこにいるのかわからずに生きてきて。

ミキティーさんの話を聞いて、自分の感覚やまわりの人たちの言葉が何を意味していたのかが整理されて、今になってモヤモヤが晴れた気がします。

性別だけじゃなく、人種や国籍まで、何も関係なくみんな同じ人間なのに、なぜ否定する側とされる側に分かれるのか。今お話を聞いていて、枠組みとして「ゲイだからどうこう」というのは、その人自身を見ていないということですよね。そういったコミュニケーションがモヤモヤを生むんだなと思いました。

「自然であること」を求められるアイドルの“狭さ”


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森 ユースケ

(もり・ゆーすけ)1987年生まれ。東京都出身。毎日ウルトラ怪獣のTシャツを着ているライター/編集。インドネシアの新聞社勤務、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。近年は企業のオウンドメディア編集も担当。オリックス・バファローズファン。

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