「自然であること」を求められるアイドルの“狭さ”
――和田さんは自身のジェンダーロールについて、どんなことを感じていましたか?
和田 私は自分のセクシャリティ的なモヤモヤを感じつつ、女だからこうしないといけないという抑圧を強く感じていました。社会的な構造として仕方ない場合もあるけど、それが自分の気持ちと合わないままずっと生きてきて。
大学で美術を勉強することで、自分のいる世界が窮屈だと感じたり、これっておかしいんじゃないかと疑問を持ったりして。美術を通して、その矛盾を自分の言葉で表現することの意味の大きさがわかってきたのに、それができない。女だから、大きな声で自分の意見を言わない、清楚であるべきといった決めつけにモヤモヤを抱えていました。
――赤いリップを塗ると批判を浴びたり、写真を撮るときは大きな口を開けないようにと注意をされたりしたことも、その一端でしょうか。ソロになってからは口を開けた写真が多くなったのも印象的です。
和田 女だからランドセルの色は赤って決められるのと同じように、大きな口を開けるのはよくないなど「女らしさ」の決めつけに加えて、職業がアイドルだから「自然」な状態を求められていたんですね。
リップの色ひとつとっても、私はオレンジ系の色が好きなのに、それは「自然」じゃない。薄ピンクしか選択肢がない。「自然」ってなんだろうと。そういったことの積み重ねで、私がいる世界のアイドルのあり方ってすごく狭いと思いました。
私自身は好きで黒髪でいるのに、「黒髪だから清楚だ」という見方を押しつけられると違和感を覚えていたし。性別に限らず、職業や国籍、人種まで……。人のあり方って、そういう枠組みで決まるんじゃない。ある時期にそう気づいたんです。
――コンセプトや楽曲が幅広く定義するのが難しい業界なのに、人によって違うアイドル像を理由に、何かを押しつけられることへの違和感があったと。
和田 15年間アイドルをつづけて抱いた疑問や問題意識を、「アイドル」と名乗りながらひとつずつ口にしていく。そのことで、今ある「アイドル」という枠組みをもっとカラフルにできたらいいなと思うようになりました。
アイドルはパフォーマーだから、表現する世界観を作るひとつの役割を持っているのは確かだけど。自分自身を表現できる場もあるからこそ、選択肢が少しでも増えたらいいなと思っています。
肩書は「アイドル」か「活動家」の二択だった
――ソロの活動を始める際には「アイドル」でありつづけることについて、公式サイトでとても素敵な意思表明をしていました。この選択をする上でどんなことを考えたのでしょうか。
和田 自分がやりたいことを考えたとき、肩書は「アイドル」か「活動家」の二択で迷ったんです。表現したいことはたくさんあるので、それをアイドルという枠組みの中で表現するほうが伝わりやすいと考えて「アイドル」に決めました。
――アイドルグループのルールについて、ミキティー本物さんはどう感じますか? かつてハロプロに憧れる側だった立場を振り返って、ファンの心理としては仕方ない部分もあるのでしょうか。
ミキティー アイドルもひとりの人間だって意識はもちろん大切だけど、その一方でグループごとのカラーもあるから、なんでも自分勝手にできるわけじゃないんだとは思います。
たとえば清楚なイメージが売りのグループに入るとしたら、真っ赤なリップや濃いアイラインがダメなのは最初からわかっているはずで、それは仕方ないですよね。自分の個性が合うグループに入るのがいいのかな。
ただ難しいのは、人間って日々変わっていくじゃないですか。やりたいことも、髪型も、メイクも。そうなったときに円満に卒業して、人生の新しい一歩を踏み出すっていうのは大賛成です。
ルールがあること自体が悪いとは思っていなくて、私たちのグループも、実はどこよりもルールが厳しいんです。
和田 えっ、どんなルールがあるんですか?
ミキティー まず、メンバーが並んだときのバランスを整えるために、髪型はプロデューサーの許可がないと変えられない。そのほか、基本的には夜遊び禁止で、人前でお酒を飲むのも禁止しています。なので、新宿二丁目に遊びに行ったりもしないですね。
和田 自分を律しているんですね。なぜそんなルールがあるんですか?
ミキティー 私がプロデューサーとして思い描くアイドル像があるから。そのルールを受け入れて、一緒にやっていくと最初に決めたんです。
二丁目に行かない、人前でお酒を飲まないのは、「ゲイ=新宿二丁目」とか「ゲイ=はしゃいでお酒を飲む」って決めつけられたくない。昔の自分が、メディアなどのイメージで変に影響されたこともあったし、そういったステレオタイプなイメージを発信したくない。これはもともとのメンバーで決めたことだから、日々ルールも変化していくだろうけどね。
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