L.M.モンゴメリ不朽の名作『赤毛のアン』に、大胆な現代的アレンジを加えたNetflixドラマ『アンという名の少女』シーズン3第10話「心の導き」、ついに最終回である。ギルバートとアンの恋はどうなるのか? カクウェットの運命は? シーズン4の可能性は? 各ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成による全話レビューも完結です。
ギルバートの手紙を引きちぎるアン
ウィニフレッドが怒っている。婚約直前にギルバートが結婚する意志がないことを伝えたのだ。
「今さら破談になったなんてみっともないわ。あなたに愛されてるって信じ込んでしまった。どうしてそんな態度を取ったのよ」
「ぼくは自分の気持ちがわかってなかった。今までずっとだ。心の奥底の思いに気づいて、すぐに君に伝えに来たんだ」
しかも、アンには片思いだと言う。アンと結婚する予定もないのに「ウィニフレッドを捨てる」のだ。身辺の整理をつけて街を離れるあいだ、破談のことは言わないでほしいと、ウィニフレッドは泣きながら訴える。
ふらふらし過ぎなギルバートが、ギリギリのところで決断した。遅いよ!
モンゴメリの原作『赤毛のアン』シリーズでは、プロポーズのタイミングまで自分の本心に気づかないのは、ギルバートではなくアンだ。ロイ(大学時代のボーイフレンド)にプロポースされて、アンは動揺する。
「あなたとは結婚できないということです」アンは必死になってくり返した。「できると思っていたんです……でも、できないんです」
『アンの愛情』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋
ギルバートはアンの家に行くが、アンはいない。ギルバートは、愛していることを伝える手紙を書き残す。
帰宅したアンはイラだっている。進学したら一緒に暮らせなくなるというのにマシューの態度がそっけないことに傷ついているのだ。
それで、アンは、ギルバートの置き手紙を見て、さらに怒る。
婚約したことを告げる手紙だと勘違いしてしまったのだ。「顔見て言えないの?」と、手紙を引きちぎり窓から投げ捨てる。だが、やはり気になって断片を集めて組み合わせる。でたらめに組み合わせて「愛してない」と勝手に読み取ってしまう。
前回は、アンの置き手紙が、風で飛ばされ、靴の裏に貼りついたりして、結局、ギルバートのもとには届かなかった。
すれ違いを繰り返すアンとギルバート。
ギルバートとアンの恋の決着
アンはグリーン・ゲイブルズを去り、シャーロットタウンの下宿に引っ越す。マシューは、ようやくアンに本心を打ち明ける。
「おまえが旅立つ前は、わたしの気持ちをおまえに知られないようにしていた。邪魔したくなくてな。だが、そうすることでおまえを傷つけた。すまなかった。おまえがいないと寂しい。毎日、お前を愛しているよ」
そっけない態度は、アンの重荷になることを恐れていたからだったのだ。
アンは、ウィニフレッドと偶然会う。ウィニフレッドは、ギルバートとアンがうまくいってると思い、アンは、ウィニフレッドとギルバートが婚約したと思っているため、話が噛み合わない。ちぐはぐな会話の果てに、破談になったことをアンは知り、走り出す。
進学のため汽車でトロントに向かうギルバートは、ダイアナと偶然、乗り合わせる。
ダイアナは、ギルバートのはっきりしない態度に怒る。アンの手紙を無視したことを叱責すると、ギルバートは「手紙ってなんのこと!?」と驚く。こちらもたまらず汽車を降りて走る。
シャーロットタウンで出会うアンとギルバート。
お互いの気持ちにようやく気づいたふたりに言葉はいらない。キスするふたり。
こうして、ギルバートとアンの恋は、ハッピーエンドを迎える。
モンゴメリの『赤毛のアン』シリーズでは、ギルバートは、アンにこうプロポーズしている。
「ぼくには一つの夢があるんだ」ゆっくりと言った。「かなうはずがないと、いくども思いながら、それでも胸に抱き続けてきた。ぼくは、ある家庭を夢見ているんだ。暖炉に火がゆらめき、猫と犬がいて、友の訪れる足音が響き……そして、きみがいるんだ!」
『アンの愛情』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋
ドラマのアンとギルバートは、まだ一緒に暮らすには至っていない。
アンはクイーン学院へ、ギルバートはトロント大学に行く。遠距離恋愛だ。
ドラマは、アンが手紙を書く場面で終わる。
「親愛なるギルバート。私はお母さんに似ているとわかりました」
カクウェットちゃんは!? シーズン4は?
だが、われわれは画面に向かってツッコまざるを得ない。
カクウェットちゃんは!?
シーズン3は、ギルバートとアンの恋だけでなく、ミクマク族の「文化的虐殺」が描かれた。ミクマク族の子供たちが、カナダ政府によって、強制的に寄宿学校に入れられた。先住民族の文化を「野蛮」だと決めつけ、矯正しようとしたのだ。
アンと仲よくなったミクマク族の少女カクウェットは、虐待がまかり通る寄宿学校から抜け出してくるが、再びカナダ政府の役人によって連れ去られる。
アンとマシュー、カクウェットの両親は、取り返しに行くが、寄宿学校側は、返してくれないどころか、会わせてもくれない。カクウェットは、暗く小さい部屋に監禁され、泣いている。
これは、歴史上の事実に基づく。
カナダの初代首相ジョン・A・マクドナルド卿は、この計画を国会議員にこう説明している。
学校が居留地にあれば、子どもは野蛮な両親とともに暮らし続ける。子どもは野蛮人に囲まれており、読み書きはできるようになるかもしれないが、習慣や躾、考え方はインディアンのままだ。読み書きができるただの野蛮人であり続ける。インディアン省のトップとして私が強く主張したいのは、インディアンの子どもたちを親の影響から可能な限り遠ざけるべきであり、そのための唯一の方法は、白人の習慣や考え方を身につけさせるために、訓練中心の工業学校に入れることである。
『命を落とした七つの羽根』タニヤ・タラガ 著/村上佳代 訳/青土社
これはまさに『アンという名の少女』のアンがずっと戦いつづてきた「差別的な考え方」だ。
シーズン4が制作されていたら、どうなっていただろうか。
原作『赤毛のアン』シリーズ『アンの愛情』のラストで、ギルバートはアンにプロポーズする。
つづく『風柳荘のアン』はふたりの婚約時代の1冊で、アンがギルバートに送る手紙で構成されている。これは、まさにドラマのシーズン3のつづきにぴったりなシチュエーションだ。
アンが送る手紙の出来事がドラマとして展開する内容になったのではないだろうか。そこで、カクウェットの問題にも立ち向かうアンが描かれたのではないかと想像する。
『アンという名の少女』が最後まで制作されず、打ち切りになったことはとても残念だ。
『アンという名の少女』全話レビュー・あらすじまとめ/記事一覧
『アンという名の少女』概要
原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット
キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)
Netflixシーズン1から3まで配信中
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