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「えん」が「ピピくん」になった
1週間経過したころに来た報告に「うちでは『ピピくん』という名前で呼んでいます」と書いてあった。ピピくん! かわいい!
「さすがに名前をつけてもらえれば、ほぼ譲渡決定だな。いい里親さんで本当によかったな」と思った。
……と、同時に「もう『えん』は『えん』じゃないんだな。もう戻ってくる可能性も、たぶんないな」と、少し残念な気持ちにもなった。
里親探しでは、とにかく相反するふたつの気持ちが、同時に湧いてくる。
〈仮の名を呼びなれた頃もらい手が決まって猫の名だけが残る〉
でも、と思い直す。
もともと「えん」は「いいご縁がありますように」の「えん」なのだ。その名の役割をまっとうしたと思えば、名前が変わるのは喜ばしくて、むしろあるべき姿ではないか。
とにかく健康で長生きしてくれ
里親さんの報告の中で「えん」は、みるみる「ピピくん」になっていった。
すごくかわいがられているのが伝わるし、「えん」のほうもどんどん心を許して安心していく様子がよくわかる。「とてもおりこうさんです」と書かれていて「外で逃げ回ってエンジンルームに入り込んでいたあの『えん』が、おりこうさんか……」と、微笑ましかった。
そして、お届けから2週間経ったトライアル期間最終日。
無事「えん」改め「ピピくん」を正式に家族として迎え入れたい旨の連絡をいただく。安堵と寂寥。
〈「肩の荷が下りた」の中に含まれる「寂しい」という成分がある〉
猫と暮らすことは、あきれたり、あきらめたりすることだ。里親さんにも、これからたくさんあきれて、たくさんあきらめてほしい、と心から思う。
〈猫がしちゃいけないことのない家でしなくていいことばかりする猫〉
〈ひととおりあきれたら さあ あきらめて そこからが猫との暮らしです〉
「えん」、お幸せに。とにかく健康で長生きしてくれ。
元気で!
バイバイ!
〈もらわれていった子猫にこの家を思い出さない未来を望む〉
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『猫のいる家に帰りたい』(短歌・エッセイ 仁尾智/イラスト 小泉さよ)
(たぶん)世界初の猫猫歌人・仁尾智、『猫びより』『ネコまる』13年間の連載がついに単行本化。短歌とエッセイで綴る猫との暮らしの悲喜こもごも。小泉さよさんの描き下ろしイラストも満載。
定価:1,300円(税別)
サイズ:A5/112ページ
発売日:2020年6月24日
発行:辰巳出版
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