『花束みたいな恋をした』きのこ帝国、今村夏子、天竺鼠、下高井戸シネマ、白のジャックパーセル…“好き”の一致が“運命”に変わる恋愛映画

2021.1.30

“人生”というものの捉え方についての物語

同じところに留まっている点(麦)と点(絹)。これが重なり合い、ひとつになっているわけだが、これが離れることになればどうなるか──それを描いているのが本作だともいえる。点と点が離れた結果、やがてそれぞれが線(糸)として伸び、また結びつけばよいが、そうなるとは限らない。人生とは、そう運命的なものばかりではないのだ。

20代のふたりの“最高の5年間”が描かれた本作

趣味嗜好や物事の捉え方がほとんど同じだったふたりだが、やがて次第にズレが生じていくこととなる。絹は自分たちの興味を優先させる気ままな生活を謳歌したいと考えているものの、麦はそんな生活はつづけられないと口にする。彼にとっては、ふたりで一緒に人生を歩んでいくことがファーストプライオリティ。「現状維持」が大切なのだという。

当たり前のことだが、好きなことをするのにも、好きな人といるのにも、お金がいる。だから麦は就職をし、仕事漬けの日々を送ることとなる。だがそうすると、好きな人といる時間も、好きなことをする時間も、お金を手にするために失われていく。この事実をどう捉えるかは人それぞれだ。

イラストレーターの仕事を辞め、ふたりの生活を維持するために営業職に就く麦

しかしこの捉え方の相違は、そのまま“生活”の、ひいては“人生”というものの捉え方につながってくる。麦の口にする「現状維持」とは、絹の思う“気ままな生活”とはまったく別物。その結果、かつて一緒に楽しんだものを素直に楽しめなくなる麦の姿が印象的で胸に迫ってくる。いつしか彼は、スマホのパズルゲームぐらいにしか手が伸びなくなるのだ。

今でもそうだが、この手のゲームに没頭している人を電車の中などでよく見かける。彼らに対して「もっと別のことに時間を使えばいいのに」という言葉を耳にしたことがあるのだが、これを口にした人は、自身の“時間の有効な使い方”というものを主張したかったのだろう。

そもそも、他人に迷惑さえかけなければ個人の時間をどう使おうがその人の勝手で、口出しされる筋合いはないはず。しかし麦の姿を見て、ひょっとすると社会生活に追われ、ほかのカルチャーに手を伸ばす余裕がないのかもしれないと考えるようになった。

資格を取得して就いた仕事を辞め、収入が下がる“やりたい仕事”を取る絹

社会での自身のあり方や人生の捉え方を、他者とわかち合うことは難しい。麦と絹はまったく同じ、白のジャックパーセルを履いて出会うが、その足並みはいつズレるかわからない。気がつけば互いに別のものを履いていることだってあるだろう。

これはこの物語を、端的に表していると思う。それでも、“運命”だと信じた美しい時間はなくならない。いつか別れの時が来たとしても、あのときに咲いていた花たちは記憶の中では鮮やかなままだ。

『花束みたいな恋をした』Special Making Photo Movie

この記事の画像(全15枚)



  • 映画『花束みたいな恋をした』

    2021年1月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開
    脚本:坂元裕二
    監督:土井裕泰
    出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
    配給:東京テアトル、リトルモア
    (c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

    関連リンク


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>こと

『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>ことの距離感と興味

King Gnu井口理と新鋭・内山拓也が語る“つづける”ということ。「ひたすら向き合う」その先に見えてくる風景

アーティストと俳優を分けない「人間、北村匠海」になった。自粛期間を経て魅せる新境地

エバース

「ウケるからやるは『M-1』では失敗する」。3位だったエバースは2026年、自分の感覚を信じる【よしもと漫才劇場10周年企画】

豪快キャプテン×ダイタク

ダイタク×豪快キャプテン、認め合うお互いの漫才の魅力「簡単そうに笑いを取る」【よしもと漫才劇場10周年企画】

三遊間×ゼロカラン

三遊間×ゼロカラン、人気投票との向き合い方の正解は?「やっぱり有名にならなあかんな」【よしもと漫才劇場10周年企画】

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

EXILE NAOTOが語る、「勝負する身体」がステージと水面で魅せる“攻めの0.1秒”。大きな影響を与えるオーディエンスのパワーとは【『SG第40回グランプリ』特別企画】

4年目の今、重荷だった「王子様」を堂々と名乗れる。Last Princeが語る、プリンスを背負う勇気と楽しさ

甲斐田晴/ローレン・イロアス/3SKMの撮り下ろし表紙を公開! VTuberのトップランナーたちを徹底解剖【春のQJ×にじさんじ祭り!】

ニューヨーク『Quick Japan』vol.181

ニューヨーク、60ページ総力特集「普通は勝てない?」を考える。バックカバーにはSHUNTO×MANATO×RYUHEI(BE:FIRST)が登場【Quick Japan vol.182コンテンツ紹介】