“人生”というものの捉え方についての物語
同じところに留まっている点(麦)と点(絹)。これが重なり合い、ひとつになっているわけだが、これが離れることになればどうなるか──それを描いているのが本作だともいえる。点と点が離れた結果、やがてそれぞれが線(糸)として伸び、また結びつけばよいが、そうなるとは限らない。人生とは、そう運命的なものばかりではないのだ。
趣味嗜好や物事の捉え方がほとんど同じだったふたりだが、やがて次第にズレが生じていくこととなる。絹は自分たちの興味を優先させる気ままな生活を謳歌したいと考えているものの、麦はそんな生活はつづけられないと口にする。彼にとっては、ふたりで一緒に人生を歩んでいくことがファーストプライオリティ。「現状維持」が大切なのだという。
当たり前のことだが、好きなことをするのにも、好きな人といるのにも、お金がいる。だから麦は就職をし、仕事漬けの日々を送ることとなる。だがそうすると、好きな人といる時間も、好きなことをする時間も、お金を手にするために失われていく。この事実をどう捉えるかは人それぞれだ。
しかしこの捉え方の相違は、そのまま“生活”の、ひいては“人生”というものの捉え方につながってくる。麦の口にする「現状維持」とは、絹の思う“気ままな生活”とはまったく別物。その結果、かつて一緒に楽しんだものを素直に楽しめなくなる麦の姿が印象的で胸に迫ってくる。いつしか彼は、スマホのパズルゲームぐらいにしか手が伸びなくなるのだ。
今でもそうだが、この手のゲームに没頭している人を電車の中などでよく見かける。彼らに対して「もっと別のことに時間を使えばいいのに」という言葉を耳にしたことがあるのだが、これを口にした人は、自身の“時間の有効な使い方”というものを主張したかったのだろう。
そもそも、他人に迷惑さえかけなければ個人の時間をどう使おうがその人の勝手で、口出しされる筋合いはないはず。しかし麦の姿を見て、ひょっとすると社会生活に追われ、ほかのカルチャーに手を伸ばす余裕がないのかもしれないと考えるようになった。
社会での自身のあり方や人生の捉え方を、他者とわかち合うことは難しい。麦と絹はまったく同じ、白のジャックパーセルを履いて出会うが、その足並みはいつズレるかわからない。気がつけば互いに別のものを履いていることだってあるだろう。
これはこの物語を、端的に表していると思う。それでも、“運命”だと信じた美しい時間はなくならない。いつか別れの時が来たとしても、あのときに咲いていた花たちは記憶の中では鮮やかなままだ。
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映画『花束みたいな恋をした』
2021年1月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
配給:東京テアトル、リトルモア
(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会関連リンク
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