『花束みたいな恋をした』きのこ帝国、今村夏子、天竺鼠、下高井戸シネマ、白のジャックパーセル…“好き”の一致が“運命”に変わる恋愛映画

2021.1.30


平成史クライマックスに焦点を絞った物語

2020年の麦と絹が、2015年から2019年までを振り返るかたちで進んでいく本作。2019年といえば、“平成最後の年”であり、また同時に、“令和最初の年”でもある。つまりこの映画は、平成の終わりの数年間を、あるカップルの肖像と共に描いているものだともいえるのだ。

ここにふと、既視感を覚える。“平成という時代と、ひと組の男女”──そう、本作と同じく菅田将暉が主演のひとりを務めた映画『糸』(2020年)である。

映画『糸』予告

同作は、1998年にリリースされた中島みゆきのヒット曲「糸」をモチーフに、平成元年に生まれたひと組の男女の行く末を、壮大な平成史と共に描いたもの。男女それぞれの人生が、いつかは結ばれるであろう「糸」にたとえられている。

物語の中心を歩むのは、菅田将暉が演じる青年と、小松菜奈が演じる女性。彼らの背景には、30年に及ぶ平成史がハッキリと見て取れた。それらはもちろん、明るいものばかりではない。自然災害をはじめとする、いくつもの社会的な問題や事象が刻まれている。出会いと別れ、すれ違いを繰り返し、裏切りや大切な人の喪失をそれぞれに経験するふたりは、激動の社会の流れを表象していたのではないかと思う。

一方、平成の“ラスト5年”にフォーカスした『花束みたいな恋をした』。こちらのほうが、圧倒的に個人に焦点が絞られている。大きく語られるのは社会的な事象以上に、麦と絹の生活と、彼らと共にある極私的カルチャーだ。

初めて訪れた麦の家の本棚を見て、絹は「ほぼうちの本棚じゃん」と呟く

それにふたりは、「糸」のように切れてしまったり、ほつれたり、変に絡まり合ったりすることはない。精神的な距離があくことはあっても、物理的に離れることはほとんどないのだ。そういった意味で本作は平成史において、映画そのものも登場人物も、さしあたり「点」とでも呼べるかもしれない。

『花束みたいな恋をした』ショートシチュエーション予告【花の名前編】

“人生”というものの捉え方についての物語


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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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