活動期を迎えた2020年。『CAFÉ BRAIN』は端緒に過ぎない
『CAFÉ BRAIN』のリリースも、「無観客無配信」ほどストレートでアクチュアルではないにせよ、COVID-19禍のなかにあるひとつのアクションといえるだろう。ライブのために制作された、あるいはライブを記録した素材の蓄積を掘り返し、作品としての輪郭を与えていく。そうした制作プロセス自体が示唆に富む。パンデミックというショックに対して即座に応答するのではなく、過去に耳を傾けつつ、現在、そして未来へと作品を投げかける。もっとも、山本自身からすれば、こんな深読みはナンセンスかもしれないが。
本作はいわゆるポップミュージック――わかりやすい構造を持ち、メロディを持ち、何より歌である――とは似つかない。しかし、人を拒むことなく、むしろ耳を傾けるうちにじんわりと身体に染み込んでいくような親しみやすさを湛えている。
換骨奪胎されたビートミュージックのような冒頭の「SKIP #2」、ジャーマンプログレとハウスを股にかけるような4つ打ちの「objet C」、ノンビートのドローン「up-age #2」など、楽曲ごとに異なるスタイルが顔を出すバラエティの豊かさも印象的だ。ギターひとつ取っても、たとえば「up-age #1」におけるさまざまなアーティキュレーションを積み重ねていくプレイと、「Fairway」の反復的(フレーズ単位のみならず、ディレイの存在も)で点描的(アーティキュレーションは一定)なプレイではまったく性格が違う。
『FNMNL』に掲載された伊東篤宏によるインタビュー(「【インタビュー】山本精一『CAFÉ BRAIN』|音楽は自分の中から湧き出て来てしまうもの」2020年7月14日)で、山本は「このアルバムは確かに4年ぶりのソロアルバムなのは間違いないんだけど、4年間ずっと創ってた、渾身の作品!っていうのともちょっと違う。もっと力抜いたものっていうか」と語っている。
親しみやすく、バラエティに富んでいる。しかし、趣向を凝らしてリスナーを楽しませようとか、マスターピースたらしめようという力みや緊張感は、いい意味で感じられない。それだけに、山本の頭の中にそのまま触れるような生々しさが、親しみやすさの向こうに潜んでいる。
同じインタビューで、山本はつづけて「こういった音作りで構築したアルバムを今年何枚か出す予定」だと明かしている。さらに、インストだけではなく、歌ものも出す、と。この『CAFÉ BRAIN』はその端緒に過ぎない、とするならば、とても喜ばしい話だ。
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