和田彩花は、観る者の心を映し出す鏡。怒りも葛藤も無邪気さも表現した『延期の延期の延期』

2020.8.5
和田彩花

文=相羽 真 写真=事務所提供
編集=田島太陽


和田彩花の単独ライブ『和田彩花ライブ「2020 延期の延期の延期」』が8月1日、Zepp Tokyoにて開催された。26歳の誕生日であるこの日、和田彩花はステージ上で何を表現したのか、何を問いかけたのか。ライブの様子をレポートする。


拍手をためらう緊張感

たくさんの椅子が並べられたZepp Tokyo。入場口で検温を受けて、手指を消毒した観客たちが、ソーシャルディスタンスを保ちながら、まばらに座っている。マスクを着けて、ほとんど音も立てずに開演を待つ人々の姿は、けっして楽しそうではない。むしろそこには不安感すら漂っていた。

オープニングSEと共に、ステージに照明が当たると、徐々に浮かび上がってくる和田彩花と4人のバンドメンバーたち。舞台下手から、キーボードの楢原英介、ボーカルの和田彩花、ギターのオータケコーハン、ベースの劔樹人、ドラムのUが横一直線に並んでいる。和田彩花のソロライブだが、和田はセンターに立っていない。

横一直線に並ぶ和田彩花とバンドメンバーたち

1曲目の「une idole」がしなやかに始まった途端、その違和感は消え去っていく。和田彩花が“5人のバンド”として、このライブを作り上げようとしていることが、一気に伝わってくるのだ。しかし、1曲目が終わったとき、拍手をすることを思わずためらってしまう。たとえ拍手という形でも、この“和田彩花グループ”が生み出す作品に、観客が干渉することは愚かなのではないか――。そんな思いがよぎるほどの緊張感が張り詰めていた。

制限される音楽業界においても、歩みを止めなかった

2019年6月18日に、アンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業した和田彩花。ソロとなって、初めてステージでパフォーマンスをしたのは、2019年10月20日のイベント『NEWTOWN 2019』でのことだった。ここでは「この気持ちの行く先に」の1曲を披露すると共に、Sen Morimotoとのコラボレーションでポエトリー・リーディングのパフォーマンスを見せた。

そのほか、SHOWROOMの番組『和田彩花と児玉雨子の懺悔室』や『クイック・ジャパン』での連載「未来を始める」、さらにファンコミュニティなどで情報発信をしながら、本格的な音楽活動の準備を進めていた。そして、2020年2月から3月にかけて、『和田彩花ライブツアー前2021 ―この気持ちの先にあるものはなに?―』が開催することとなったのだ。

しかし、ここで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してしまう。和田の初ソロツアーは2月24日の名古屋公演こそ開催されたものの、大阪公演は中止。東京公演はいったん延期となったが、振替公演も中止となった。

観客を前にしてパフォーマンスができなくなっていくなか、和田は歩みを止めなかった。3月13日から14日かけて、YU-Mエンターテインメント所属タレント総出演の『25時間半テレビ ~アイドルと未来へ向かう場所~ #愛で山田を救ってくれ』がニコニコ生放送で配信され、ここで和田は無観客でのパフォーマンスを披露した。ステージ上でバンドメンバーと共に輪になって歌う姿からは、バンドで音楽を表現することの楽しさを知った喜びが伝わってきた。

幻想的な映像に溶け込みながら歌う和田彩花

6月21日には、都内某所のビルの屋上から配信ライブ『2020.06.21. 私たちには空があるだけだって、確かめてみよう』を実施。アンプを使わず、イヤホンモニターで音を確認しながら演奏するというスタイルでの屋上ライブは、新型コロナウイルスによって制限される音楽業界において、表現の可能性を広げる試みだといえるだろう。

そんな特殊な状況下での活動を経て、自らの誕生日である8月1日、久しぶりに観客の前でのライブとなる『2020 延期の延期の延期』が開催されたのだ。


過去からの変化を象徴する場面

「ホットラテ」では和田自筆のイラストを使ったアニメーションが映し出された

16曲が披露された今回のライブでは、バンドとしての一体感と共に、サウンド面での幅の広さもじゅうぶんに表現されている。柔らかでメロウな曲もあれば、ダンサブルな曲もストレートなロックチューンもある。雑多なようにも思えるが、その幅広いサウンドが、和田彩花が綴った歌詞に潜む、複雑に絡んださまざまな感情や状況を見事に表現する。

たとえば、“クソぼけね”という強烈なフレーズが脳裏に焼き付く「121位」という曲。これは、2019年のジェンダー・ギャップ指数ランキングで日本が世界121位だったことを受けて作られた楽曲だ。まるでドゥームメタルのように呪詛的で重苦しいボーカルからは、和田が抱く怒りや嘆きを痛感させられるばかりだ。

今回のセットリストの中では、特にダンサブルな「無題」という曲。この曲で繰り返される“退屈そうに見えるわ”というフレーズが、なんともいえない空気を生み出していた。許されるのであれば、多くの観客が音楽に合わせて自由に踊りたかったことだろう。しかし、すべての観客はただただ座ってステージを観ているしかない。そんな観客に向かって、“退屈そうに見えるわ”と歌う和田。意図しなかったものであったとしても、結果的に強烈なメッセージが生み出されたのだ。偶発的な状況が自然と作品に巻き込まれていく様は、まさにインスタレーションそのものである。

ソロになって初めてステージで披露した曲でもある「この気持ちの行く先に」の間奏では、ステージ上の大きなスクリーンにポエトリーが映し出された。そのとき、和田は客席に背中を向け、ダンスをする。照明もまったく当たっていない中で、その身体を躍動させた。

「オリーブをくわえた鳩が飛ぶ日には」で、赤く染められるステージ

何を表現しているのか、それを「わかりやすく伝える」ことをよしとする価値観もある。かつての和田彩花はそういった世界に住んでいただろう。しかし、この曲で見せたダンスは、その価値観から完全に解き放たれているものだ。それが正解かどうかはまた別の問題だが、和田彩花が“自由な表現を手に入れた”という事実が、暗闇の中で広がっていた。現在の和田彩花の状況、あるいは過去からの変化を象徴する場面だっただろう。

葛藤が消え去ることはないからこそ

ライブの前半では、誕生日にまつわる詩が朗読された。中学2年生のころから仕事が忙しくなり、私生活が制限されるようになった少女の詩――つまりアイドルとして活動してきた和田彩花自身の経験と気持ちを綴ったものだ。

アイドル活動の中では、個人的な感情を素直に露呈しにくいことも少なくない。和田は、そういった環境での葛藤を赤裸々に明かし、そうあるべきではないという立場を示す。それはもちろん、ひとつの問題提起でもあるが、同時に“葛藤を表に出す”という行為が許されるようになったことへの、喜びの表現でもあるだろう。和田彩花は、葛藤を喜びに変換するすべを手に入れたのだ。

そして、この詩は、

「今日は誕生日だから、仕事が終わったら早く帰る」。そう口にすることも必要だ。

という一節で締めくくられる。

ここで気になるのは「仕事」という言葉だ。自分の感情を作品として表現できるようになった今もなお、この日のライブは和田にとって「仕事」なのだ。ステージ上の和田は、単純に素直な気持ちを表現しているわけではない。私生活と乖離された「仕事」である以上、そこにはまだまだ解消されることのない葛藤がありつづけているはずだ。

ステージ上部から客席後方にかけて、観客の頭上に白い花が飾られていた

それはもちろん、和田の心をかき乱す要素なのかもしれないが、その葛藤が作品に投影される機会が、今後も絶え間なく訪れるということも意味している。和田彩花の心に中には、作品として表に出ることを待ちわびているさまざまな感情があり、そこに期待せずにはいられないのだ。

自分を見つめ直す「これからどう生きていきたいですか?」


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相羽 真

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相羽 真

(あいば・まこと)ライター。1975年生まれ。神奈川県出身。近年の主な執筆分野は芸能・エンタメ全般。WEBメディアの編集も担当。

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