和田彩花は、観る者の心を映し出す鏡。怒りも葛藤も無邪気さも表現した『延期の延期の延期』

2020.8.5


自分を見つめ直す「これからどう生きていきたいですか?」

ソロになってからの和田彩花は、画一的な価値観への疑問を常に発信している。“アイドルはこうあるべきだ”、“女性はこうあるべきだ”などといった、いつの間にか定着している呪縛から逃れ、個人の感情や思想こそを尊重し合える世の中を求めている。つまりは“多様性が認められる社会”の実現が、その念頭にあり、歌詞にもそういったメッセージが多く刻まれている。

和田の歌詞は必ずしもストレートで具体的なものではなく、抽象的であり、暗喩的であり、さまざまな解釈が許容されるものとなっている。それは、“私はこう考えていて、それが正解だ”などと傲慢に押しつけるものではなく、“私はこんな考えを持っている。あなたはどんな考えを持っていますか?”という問いかけにも近い。

ライブ中のVTRで和田は、スタッフやバンドメンバーに対し、「これからどう生きていきたいですか?」という質問を投げかける。シンプルな質問だが、真剣に考えたら、答えが出るまで何時間もかかってしまうだろう。そんな簡単ではない質問を無邪気に問いかける和田と直面することで、誰もが自分を見つめ直さざるを得なくなる。

和田は明確な自分の主張を持ちながらも、“世の中にはいろいろな人がいていい”という大前提のもとに表現をする。だからこそ、観ている人々は、“いろいろな人がいていいなら、自分はどんな人なのだろうか?”と考えることとなる。そして、社会はどうあるべきか、女性とはどういった存在なのか、アイドルとはなんなのか、人間とは、愛とは、平和とは……と、あらゆるものについて考えさせられる。和田彩花という人間の魅力を享受しようとしていたはずなのに、いつしか自分の考え方、哲学、生き方について思考を巡らせていることに気づく。「これからどう生きていきたいですか?」という質問は、まさに和田彩花の表現における軸なのだ。

和田彩花は、観る者の心を映し出す鏡だ。人々を触発するには、じゅうぶんすぎる存在だ。和田は自身の肩書について、「アイドルか活動家しかない」と発言したことがある。表現で人々を魅了するという意味ではアイドルそのものであり、人々を触発するという意味では活動家そのものだ。和田彩花は今、アイドルと活動家の両翼で羽ばたいている。

和田彩花に触発されたその先に

和田彩花が見つめる向こう側にあるものは……

和田彩花が生み出す音楽は、時に難解で、振り幅も大きくて、矛盾を含んでいることもあるだろう。でも、だからといって不安定なわけではなく、未知のものに触れる緊張感と高揚感にあふれ、そして自然と観る者の心は揺さぶられる。今回の『2020 延期の延期の延期』では、そんな和田彩花の複雑怪奇な魅力があらわになった。そして、今後もその魅力を体験できる場が増えていくだろうという期待感を与えてくれた。

世の中がアップデートしていかなければならない今、和田彩花という存在を無視することはできない。和田彩花を観て、触発され、自分を見つめ直したその先に、あらゆる答えが待っている。

和田彩花
(わだ・あやか)1994年生まれ。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(のちに「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出され、リーダーに就任。2019年6月18日にアンジュルムを卒業。大学院で学んだ美術に強い関心を持ち、各種メディアへの出演や執筆活動も行う。『クイック・ジャパン』ではエッセイ「未来を始める」を連載中。


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相羽 真

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相羽 真

(あいば・まこと)ライター。1975年生まれ。神奈川県出身。近年の主な執筆分野は芸能・エンタメ全般。WEBメディアの編集も担当。