金借りの鉄の掟

しかし、切磋琢磨する相手が見つかったからといって皆様早まってはいけない。

「お金貸して！大好きなあなたに借りたいんです！」

とLINEを送ってしまった方は直ちに送信取消をした方がいい。
お金がどうしても必要で借りたい時に忘れがちなのだが、金借りの鉄の掟がある。

「ないところから借りない」

当たり前の事なのだが、これも意外と守れない。
とにかく3万借りたいから、相手の財政を鑑みずに全財産5万の人に借りたりして、相手に迷惑をかけたりするのをよく見る。
金借りが債権者様の生活を脅かす事なんてもっての他だ。

借りる額は相手の貯金額の10%まで！

これを守って欲しい。
大事な事なので今すぐ声に出して、復唱して欲しい。

借りる額は相手の貯金額の10%まで！

とにかく自分の借りたい額を借りるんではなく、常に債権者様ファーストの精神を忘れないで欲しい。

なので、ここからは大好きな人の財政調査に入る。
そもそも大好きな人に貯金があるとは限らない。だからといって「貯金はいくらですか？」と聞くのは余りに趣きがない。

貸してあげたいけど、金がないので貸せない。なんて事を大好きな人に言わせるのはもっとダメだ。
家の場所、間取り、身につけてる物……。感性を研ぎ澄まし、貯金額を読むのだ。
ヒントは必ず隠されている。

貯金の有無を知るにはSuicaの残高を見るのが一番いい。

Suicaに5000円以上入ってる人は貯金がある。

簡単な話である。
我々のような貯金0の民は、基本Suicaに1000円ずつチャージする。
少し余裕がある時にだけ5000円チャージするのだ。
しかし、5000円以上入ってるという事は、あの伝説のボタン、1万円チャージボタンを押した事になるのだ。
そんな人は貯金があるに決まっているという理論である。

後はさりげなく洗濯の話をするのもいい。

ドラム式の洗濯機を使ってる人は大概貯金が100万以上ある。

とにかく色んなところから貯金を読むのだ。

土下座の効用

ここまで来たら、後は誠意をもって一生懸命借りるだけだ。
しかし、ここに皆様が勘違いしてる一番の落とし穴がある。

「間違っても、金を借りる時は真面目に借りない事」

失礼のないようスーツでも着て、ただ事じゃない雰囲気を醸し出し、神妙な面持ちでこう言う。

「本当にすみません！どうかお金を貸して下さい！絶対返しますので！」

地獄だ。
俗に言う「娘さんを下さい型金借り」の誕生である。
一見正しいように見えるが、娘さんを下さいのテンションで来られた債権者様の立場になってみて欲しい。

反射的に「娘はやらん！」テンションで「お金は貸さん！」とも言われかねないし、そもそも真面目に金を貸して欲しいと懇願されて、土下座でもされた日が楽しいわけがない。

土下座なんて、断りにくくするだけの、もはや攻撃だ。

とにかく債権者様にはこの日を楽しんで頂く事が大事であり、実際今までの経験上、不思議な事に笑って頂けたら借りられる確率も凄くあがるのである。

恥ずかしいが、僕がよく使う手法を紹介する。

「ほんとごめんなさい。今から私はおかしな事を言います。自分でも絶対おかしいのは分かってますが、とめられません。
本当に断って下さい。なんなら断られたいです。
あの……どうしても散髪に行きたいので、60万貸してくれませんか？」

面白い面白くないは別にして、これには金借り20年の技が詰まっている。
金を借りる時は、とにかく相手が断りやすい雰囲気作りをするのが大切だ。

債権者様にお手を煩わせてはいけない。
最後にボケておけば、断られても「兄さんジョークですがな」で済むし、皆様が心配してる地獄の空気にはならないのだ。

最後の金額は好みかもしれないが、何となく僕の感覚では、借りたい額の20倍くらいが一番ウケる気がしている。

この場合だと本当に借りたい額は3万だ。

そこは各々の一番ウケる数字を探していって欲しいが、基本59～99万あたりが現実味がなくてウケる気がする。
ただ借金は基本一度低めに言ってしまうと、それより額をあげるのは難しいので、数字低いボケには気をつけて欲しい。

後はこれと合わせて、終始犬よりも低い体勢をとる技や、「どっか舐める床ありますか？」としきりに言う技を挟めば、金を借りられる成功率があがる。

片目を強く瞑って終始痛そうな顔をして借りると、何故か凄く成功率があがるのだが、理由は全くわからない。

しかし、金借りの数だけ借り方がある。
そこの技を試すのも金借りの醍醐味だと思うので、そこは各々失敗を繰り返し編み出して欲しい。

明日からまた頑張って借りよう

ここまで読んでくれた方々は分かってくれたと思うが、ワンランク上の金借りとは、より多くの金を借りられる金借りの事ではない。

債権者様に御迷惑をかけない、なんなら何かを与えられる金借りこそがワンランク上の金借りなのだ。

偉そうに言っている僕も、まだ債権者様に恩返し出来ていない。
債権者様にお前に貸して良かったと言われる金借りになれるよう明日からまた頑張って借りようと思う。

最後は格言でお別れしよう。

｢封筒に入れて金を貸してくれる人は大切に｣

お金を貸して頂く時に裸ではなく、銀行の封筒に入れて渡して下さる債権者様は、お金の大切さを知る人格者様。その方は借金を通して、我々にお金の大切さや、色んな事を教えて下さる。