「村上さんの感想が一番うれしかった」根本宗子×フルーツポンチ村上健志、ふたりで語る『今、出来る、精一杯。』
劇作家の根本宗子が、自身の代表作『今、出来る、精一杯。』を小説化した。QJWebではこれを記念し、かねてよりツイッターやラジオで根本の作品を称賛してきたフルーツポンチ村上健志との対談の場を設けた。
東京都三鷹市のスーパーマーケットを舞台に、「めんどう」な12人の人間たちが感情をさらけ出すこの物語が、編集者からの熱い依頼によって小説に生まれ変わった。同作は、2013年に当時23歳だった根本が自身の劇団公演のために書き下ろした作品で、2015年に再演、2019年には音楽劇として再々演されている。
お笑い芸人であり、また近年では俳人としても活躍を見せる村上は、彼女の小説をどう読んだのか。ロング対談の第1回(全3回)。
好きなものを作った張本人に感想を話すのは怖い
──おふたりは初対面ですか?
村上 いえ、お芝居を観に行ったときにご挨拶だけはさせてもらっていて。
根本 はい、楽屋に来てくださって。ちゃんとお話しするのは今日が初めてですね。
根本 でも、よく考えたら「作品への感想がうれしかったんで、ゆっくりお話ししてみたいです」ってお声がけは、村上さんにとってはちょっと話しづらいですよね(笑)。
村上 いやいや(笑)。
でも確かに、作った本人に感想を伝えるのって難しいですよね。これまではツイッターでもラジオ(『しずる池田とフルーツポンチ村上のアーバンブルーラジオ』)でも、本人に聞いてもらうつもりなく勝手に言ってただけなので。
本人に向けるとなると、すごく気負います。「ほかの人の感想には紛れたくない!」とか「人とは違う感じ方ができてます、俺!」みたいな自意識が出ちゃう。
根本 私もあります。すごい好きな劇作家の舞台だと、面識があってもあえて楽屋に行かないときがあって(笑)。
私は松尾スズキさんが好きなんですけど、長年好きでずっと観てるから、「松尾さん、今はこういうフェーズなんですね」とか、よくわかんないオタクみたいなことを言っちゃいそうで怖い……。
村上 ありますよね、そういうこと(笑)。
村上 あとは僕、「太字癖」があるって言われて。雑誌で太字になるようなキラーワードを残そうとしちゃう癖。下手すると、作品を超える感想を言おうとしてるときまであって。
根本 わかります(笑)。
村上 ほんと、感想は難しいですね。短い言葉でスパッと言ったほうがかっこいいのに、すげー長くしゃべっちゃう。
根本 でも自分が感想をいただく側だと長いほうがうれしいですけどね。
ラジオで村上さんが『もっとも大いなる愛へ』(2020年に無観客配信で上演。翌年再配信)を観て、「これを作った人と一夜を共にしたような感覚に陥った」と言ってくれたのが、すごくうれしくて。
※感想は25分ごろから
村上 ほんとですか、それならよかったです……!
僕、あるときから映画とか演劇を観ても泣けなくなってたんですけど、配信を観てて気づいたら涙が流れてて。あの瞬間は、意味を超えて僕の中に入ってきた、みたいな感覚でしたね。
想いを伝えたいのに、しゃべればしゃべるほど想いから遠ざかっていくもどかしさみたいなものが表現されてて、「俺もそういうやつだわ……」って。
根本 うれしいです!
わたし、芝居を観ることで誰かとしゃべったような気持ちになってもらったり、自分のことをしゃべりたくなってほしいなと思って演劇を作ってるんですよ。
今回小説を書いたのも、編集者の方がまさにそういう感想をくださる、いわば私の「理想的なお客さん」だったからなんですけど(笑)。
でも、あの時期にいろんな方に感想をいただいた中でも村上さんのラジオの感想は一番うれしかったです。
登場人物がみんなワガママだからいい
──『今、出来る、精一杯。』の小説版についても、「読んだ人と思ったこと全部話したい」とツイッターに書かれていましたね。
村上 そうですね。なんっていうんだろう……人ってみんなそれぞれに生きづらいじゃないですか。社会にうまく適応できないがゆえの痛みを、それぞれが抱えてるというか。それは普遍的なテーマですよね。
このお話に出てくる人たちもそれぞれに痛みを抱えて苦しんではいるけど、だからといって諦めない。まさに『今、出来る、精一杯。』をやろうとしているところがいいなと思って。
根本 諦めない気持ちは、これを最初に書いたとき自分の中にあったんですよね。
当時一緒に住んでた人がいて、その人に自分の気持ちが伝わらないのが一番嫌だったんですよ。とにかく思ってることをしゃべって伝えようとするけど、それがいいことなのか悪いことなのかもわからない。そういうもどかしさとか苛立ちが込められてますね。
村上 みんなけっこうワガママなところも、僕はいいなと思って。「私の気持ちを誰にもわかってもらえない」と悩んでる人たちも、たいていワガママですよね(笑)。
根本 ほんと、みんな自分勝手ですよね。当時は一番正論を言ってると思って書いた人物でも、今読み返すと全然自分勝手で……それは当時の自分の稚拙さを突きつけられるようで苦しかったです。
あと、23歳のころの熱量にはちょっと勝てないなと思うのが、理不尽なことを何一つ飲み込もうとしていないところ。登場人物の中で一番若い久須美さんは、誰よりも正論を言っているのに若いって理由だけでないがしろにされてる人で。私自身も当時周囲に「まだ若いから」みたいな扱いをされるのがすごく嫌で、早く歳を取りたいと思ってたんです。
この芝居も上の世代の劇作家から「こんなちゃんとした会話劇は歳取ってからいくらでも書けるんだから、もっと若いものを書け」って言われて。確かに、20代だとエモーショナルさとか若さでとにかく突っ走ってるようなものが評価されやすいんですよ。たとえば、ブラジャーを投げつけ合う、みたいな演出をする劇団が当時は評価されてて。
村上 なるほど、理屈ではない衝動は感じますね(笑)。
根本 そう、やっぱりそういう演劇ってエネルギーはすごくあって。でもそんななかで観に来た岩松了さんが「対立を描く若い作家が出てきた!」とうれしい感想をくださって、「君としゃべってみたかったからオーディションに呼んじゃったよ」と言って自分の芝居のオーディションに呼んでくださって、それはすごくうれしかったのを覚えています。
つづきはこちら:対談中編
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月刊「根本宗子」新しい試み「Progress 1」
作・演出:根本宗子
出演:安川まり
絵:harune
劇場:KAAT神奈川芸術劇場 小スタジオ
公演期間:2022年6月24日(金)〜6月26日(日)全6回公演関連リンク
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