根本宗子×フルーツポンチ村上健志(2)「痛みは誰かにジャッジされるものではない」

2022.6.7
根本宗子×フルーツポンチ村上健志(2)

文・編集=碇 雪恵 撮影=塚田史香


小説版『今、出来る、精一杯。』を出版した劇作家の根本宗子と、フルーツポンチ村上健志との特別対談の第2回(全3回)。今回は、小説の中で印象的だったセリフやふたりの表現方法の違い、感情と言葉の扱い方を聞いた。


前回の記事

東日本大震災のあと、個人的な苦しみを言い出しにくかった

──村上さんが小説『今、出来る、精一杯。』で特に印象に残ったシーンは?

村上 (しばし考える)……あ、車椅子に乗っている女性の、「全力でセックスできない気持ちわかる?」って言葉は残りますよね。

言葉としての強さももちろんあるけど、それ以上に自分以外の人の本音に触れた気持ちになったというか。演劇とか本だからこそ伝わる表現ですよね。

根本 そのセリフ、実は小説にするとき消すか残すかギリギリまで悩んだんですよ。演劇だと多少強いワードも許されるけど、活字だとどうなんだろうって。

根本 自分自身が中高6年間車椅子を使っていたので、その経験から着想した人物ではあるんですけど、ひと言に「車椅子生活」といっても本当に当たり前に人それぞれで。車椅子を使っている人みんなの意見をわたしが描けるわけもないので、あくまで自分の視点で描けることを物語に入れたという点ではどの役も書き方は同じで。

もちろんすべてが実体験なわけでもないし、自分が持っている感覚的なこととフィクションをどれだけ上手にひとつの物語にまとめるかを大切にしたといいますか。でも、今の村上さんのお話を聞いて、残してよかったなと思いました。

村上 小説の中で書かれていなかったら、僕らが知らないままでいる苦しみでした。そこに限らず、「なんでいいことをしてるのに、全然わかってもらえないの?」とか「がんばりたい気持ちはあるのに、働けない」とか、登場人物それぞれに違う苦しみがありますよね。

それって他人から見ると「いや、それは我慢しろよ」とか「明日からでも働けよ」みたいに軽く思われてしまうことかもしれないし、逆に「ああ、それはかわいそうだね」って誰が見ても同情するようなことかもしれない。

そうやって人は他人の苦しみに優劣や上下をつけてしまうかもしれないけど、それぞれが抱えている痛みは誰かにジャッジされるようなものではないって、小説だとより伝わりますよね。

根本 今の村上さんのお話を聞いて思い出したんですけど、東日本大震災以降、最初に書いたのがこの話だったんですよね。あの時期は何を書いていいかわからなくなっちゃって。大変な目に遭った方々がいる状況で、個人的で些細な苦労については口に出せないようなムードを私は感じていて。

震災が起きたこととは別に、自分の身の回りでも相変わらず面倒なことは起きつづけている。個人的な苦しみって人間全員にあって、大きなことが起きても個々の苦しみは変わらないじゃないですか。だけど「あなたはまだ黙っててください」と言われているような気分だったというか。

村上 社会的に大きな出来事が起こると、みんな無自覚的に自分の言いたいことを我慢してしまう空気ってありますよね。でもだからといって、たとえばツイッターとかで「もっとみんな苦しんでいいんだよ」とか「泣いてもいいんだよ」って言われると、それはそれでなんか違うなって……。直接的に抱き締めてほしいとか、同情してほしいとかじゃないんですよね。

この小説もそうですけど、作った人の気持ちが落とし込まれている作品を通じて、人は救われたり、寄り添ってもらえたりすると思うんですよ。

根本 そういうことでいえば、自分が普段感じてる些細なことを整理するために文章を書いているようなところがあって。自分の気持ちをどうにかするために書いたものが、偶然誰かの日常に寄り添う結果になったらいいな、くらいの距離感ではありますね。それこそ「いいこと言ってやれ!」みたいな力みがあるものってまったく届かないと思うし、距離感間違ったものになってしまうと思うので。


「俳句で最初に削るのは、自分の心」

──根本さんの作品には、自分の思いを伝えようと言葉を尽くす人たちが登場します。一方、村上さんは『プレバト!!』(MBS)をきっかけに俳句の世界でも活躍されています。字数制限の厳しい俳句で思いを伝えるのは難しそうだと思ったのですが。

村上 俳句はむしろ、自分の思いを伝えないのがポイントかもしれないですね。僕自身は、自分の思いをたくさんしゃべるのが好きなほうなんです。途中で「あ、これ今言うことじゃないな」と思っても引き下がれなかったりするくらいで。

でも、俳句には17文字という型がある。型を守るためには言葉をどんどん削ぎ落とさないといけない。そのとき何を最初に削ぎ落とすかというと、自分の思い、主観なんですよ。

たとえば目の前にあるこのおしぼりをテーマにするとして、「このおしぼりは濡れているからうれしい」って僕の感想を入れちゃうと、俳句としてはあんまりよくない。自分の感想はいったん置いておいて、おしぼりをフラットに観察するほうが大事で。

ちなみに短歌の場合だと、自分の心象風景を入れるのでまた変わってくるんですけど。俳句も短歌も僕の場合の作り方なので、ほかの方はまた違うかも。

──なるほど……とても興味深いです。

根本 俳句にももしかしたら通じるんじゃないかと思うんですけど、村上さんのチープものまね(チェケラ鉄矢、郷とろみなど、ダジャレとかけ合わせたものまね)が大好きで。

根本 これを100個考える村上さんはすごい! 俳句もそうだけど、おかしみをぎゅっと一瞬にまとめられるのが本当にうらやましいです。

村上 俳句もチープものまねも、番組きっかけで始めたら反応があったから、じゃあいっぱい作ってみようかなってだけなんですよ。

根本 でも、あの量はそう作れないですよね。

村上 まじでダジャレ考えてるだけですけどね(笑)。でも僕は、瞬間風速的なものをいっぱい作るのが嫌いじゃないのかも。逆に根本さんみたいに、ひとつのものを長い尺で完成させるほうが僕は苦手で。思いついたものをパッと出したいんです。

根本 パッと出して、やっぱり引っ込めることもありますか?

村上 ありますあります。ボツにしたものは山ほどありますよ。でも、俳句もお笑いもそこがいいのかもしれないですね。俳句もテレビ番組だとその場で良し悪しを判断されるけど、俳句の句会だとそこは全然違って。とりあえず思いついたものを全部出して、そこからみんなの反応がよかったものをストックして、ブラッシュアップして賞に応募する、みたいな。

お笑いもそうですよね。新ネタ作ったらそれですぐに完成ってわけじゃなくて、お客さんの前にかけてどんどん手直ししていく。でも小説とか演劇は、手直しが難しいかもしれないですよね。

根本 そうですね。それでも演劇はまだ、お客さんの反応を見ながら千秋楽までに調整できます。でも小説は、発売してしまったら本当に何も手の加えようがない。だから、発売後は一度も読み返してないんです(笑)。「ここ、直したい」と思ったりするとやだなと思って。

根本 あと、芸人さん同士の関係性もうらやましい。又吉(直樹)さんのYouTubeで、チープものまねのネタをみんなで出し合ってたじゃないですか。アイデアを出し合って揉んで何かを作る、って経験をしたことがあまりないんですよね。

たとえば私が俳優に「じゃあこのセリフの別案を100個出しましょう」って言ったらおかしなことになるし(笑)。感覚が近い人たちと一緒にものを作ったりできるのはうらやましいですね。

村上 僕が代表して言うようなことでもないけど、それはお笑い界のひとつの自慢かも。お笑い界は芸人にとって居心地がいいですね。

つづきはこちら:対談後編


【関連】根本宗子が吉田豪に聞く「“演劇の流行ってなさ”をどうにかしたいんです」


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  • 月刊「根本宗子」新しい試み「Progress 1」

    月刊「根本宗子」新しい試み「Progress 1」

    作・演出:根本宗子
    出演:安川まり
    絵:harune
    劇場:KAAT神奈川芸術劇場 小スタジオ
    公演期間:2022年6月24日(金)〜6月26日(日)全6回公演

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  • 『今、出来る、精一杯。』(根本宗子/小学館)

    『今、出来る、精一杯。』

    著者:根本宗子
    出版社:小学館
    定価:1,760円(税込)
    発売日:2022年4月21日

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Written by

碇 雪恵

(いかり・ゆきえ)北海道札幌市出身。出版取次会社や出版社での勤務を経て、現在はフリーランス。ライター業や出版社の営業代行を請け負う傍ら、ウェブサイト『WEBmagazine温度』運営、新宿ゴールデン街「月に吠える」店番なども。

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