根本宗子が演劇活動を休止した1年間で見つけたもの 横山由依・中山莉子らと挑むオペレッタ『Cape jasmine』

2021.9.20
根本宗子(ねもと・しゅうこ)

文・編集=山本大樹 写真=Masayo


昨年末から演劇活動を休止していた劇作家・根本宗子。「演劇を外側から見つめてみたい」と語っていた根本は、1年間の充電期間で自身の活動や表現と向き合い、パワーアップして演劇の世界に戻ってきた。さまざまな作品に刺激を受けながら「自分が演劇でやるべきことを探してきた」と語る根本。

10月6日(水)、10月7日(木)に『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』の上演を控えた根本に、この1年間での活動と新作への思いを聞いた。

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演劇活動を休止した期間で見えたもの

根本宗子
(ねもと・しゅうこ)1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品にも選出されて以来3度にわたり選出

──昨年12月の『もっとも大いなる愛へ』を最後に、演劇を1年間休止されていましたが、その間はどう過ごしていたのでしょうか?

根本 あくまで演劇をやってないというだけで、ほとんど書き仕事をしてた気がします。もちろん、お客さんとして演劇は観たし、ずっと演劇のことは考えてましたね。

──「演劇の修行期間」とおっしゃっていましたよね。

根本 あ、いや、「修行期間」じゃなくて、「演劇の修行」は1回やった企画です。紛らわしいですよね(笑)。コロナになる前から、もともと演劇ってまあまあお客さんの層が狭くて、そこを広げていくのが今ますます難しくなってる気がしてて。もちろん演劇が好きで観に来てくれる方もたくさんいるんですけど、やっぱりいろんな劇団や演劇人で同じお客さんを取り合ってるような状況なんです。そこから新しい人たちにも広げていきたいと思って自分は活動してきたんですけど、コロナ禍でますます難しくなってしまって。

どの仕事ももちろん今大変ですけど、特に演劇はコロナみたいなものとめちゃくちゃ相性が悪いんですよ。「今は演劇、劇場行くのは……」って人ももちろんいるだろうし、私たちも以前と同じテンションで「ぜひ劇場へ!」とは言えないじゃないですか。そういう状況で今後どうやっていけばいいんだろうっていうのと、それでも来てくれるお客さんに自分が見せるべきものってなんだろうっていうのを延々と考えてました。やっぱりお客様のお前でやって初めて成立するのが演劇なので。

──何か答えは見つかりましたか。

根本 当たり前かもしれないですけど、ドラマを書くとかラジオに出るとかテレビに出るとか、この1年間、演劇以外の活動もたくさんしてみて、やっぱり自分は演劇が一番好きだし、自分は演劇が一番かっこいい芸術だと思ってるからやってるんだっていうのを再認識しました。

──昨年の大森靖子さんとの対談でも、「外側から演劇を見つめてみたい」とおっしゃっていましたよね。

根本 そうですね、完全にお客さんに戻っていろんなものを観ることができたんで。この1年で出た新作の舞台をいろいろ観て感じたのは、けっこういろんな人が「生きてるだけで丸もうけ」みたいなオチを書いてるなっていう印象。そりゃそうですよね。現実がつら過ぎるから、演劇でつらいものを観たいとは思わないし、実際にそうだからそのメッセージになるのが自然。

全部の作品を観たわけではないですけど、そういうメッセージの人が多いのかなって思いながら、じゃあ次に自分が何をやるのがいいのかを考えました。

横山由依(AKB48)と中山莉子(私立恵比寿中学)

──演劇活動休止の期間での経験が、今回の『Cape jasmine(ケープ・ジャスミン)』にも反映されているのでしょうか?

根本 たとえばNetflixとかhuluのオリジナルドラマを観てると、1話目の始まって5分くらいで人が飛び降りたり大事件が起きてて。視覚的にも内容的にも視聴者を掴んで飽きさせないようにできてるから、とにかく親切。演劇ってなかなかそういうことができないっていうか、そうじゃない仕組みがあってこそ成立するから、そういうことに気づいたからには何かアクションを起こしたいなとは思ってます。

今回の『Cape jasmine』もすごく実験的というか、今までだったら「演劇でやるのは違うかな」と自分で止めてたことをやってみたり、絶対に切らなかったカードを切って台本を書いてる感じですね。それは1年間休んだからこそ「気にせずにやってみようかな」と思えたんだと思います。人の熱量があるからできること、といいますか。

──オペレッタという形式を選んだ理由は?

根本 もともとグランドミュージカルをいつか作れるように、とここ数年自分は演劇と向き合ってきて。その目標はもちろん変わらないんですけど、ご時世や自分のキャリアいろいろなことを総合して考えた結果、いわゆるグランドミュージカルを目指すよりも、「今の根本がやったらこうなった」というミュージカルを今はまだ出していくべきだなと思って。そこには絶対、小春ちゃん(チャラン・ポ・ランタン)の力が必要で。

で、我々の作る音楽劇に何か名称をはっきりつけたいなと思って、小春ちゃんの音楽と、自分の書くものを合わせるなら、「オペレッタ」という冠がいいんじゃないかなと。実際、そういうジャンル分けって少し曖昧ですし、作ってるこっちも曖昧なんですけど、オペレッタだと言い張ればオペレッタなんで。ほかの人がやってないものを作りたいっていう意思表示として、冠につけた感じです。

これは毎回言ってますけど、基本私は「演劇観てんだか何観てんだかよくわかんないけど、観たことないすごいもん観た」っていう気持ちになってほしくて。だからキャスティングもそうですけど、これは自分しかやらないだろうなっていうものを作りたい気持ちが強いです、今回は特に。

中山莉子とは6年ぶりに稽古で顔を合わせる。「当時の中山さんは14歳だったんで『大きくなったね〜』みたいな感じになると思います(笑)」

──これまでも演劇の外の人たちと作品を作ってきましたが、今回もAKB48の横山由依さん、私立恵比寿中学の中山莉子さんなどが出演しますよね。

根本 横山さんはわりと立派な演劇に出演されてたり、中山さんもエビ中で精力的に演劇活動をやってるので、そういう作品を観てきたお客さんにも「こういうのも演劇なんだ」っていう新しい一面を見せたい。もともと中山さんは、2015年に脚本を担当したドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』に出演してもらってて。中学生役のオーディションをしたときから、中山さんはめちゃくちゃおもしろくて(笑)。

それで今回の企画を思いついたときに「彼女だ!」と速攻で出演をお願いしました。そのあとも舞台を観にきてくれたりとかもしてて、ずっと活動は追ってて。中山さんが20歳くらいになったら一緒に舞台やりたいなって勝手に思ってたんです。

──横山さんと一緒にやるのは初めてですか?

根本 そうですね。今回メインになる人は、一見普通に見えるけど、芯が強い人がよくて、それで横山さんはピッタリかなって。AKBで総監督をやられてたくらいだから、苦しい経験も大変な経験もされてるだろうし、それでもあんなにいい人のままテレビに出ててすごいなって。だからご一緒してみたいと思ってました。あと、舞台がお好きだっていうのも小耳に挟んではいたので……。

コロナで世界が変わっても、イラっとすることって変わらないじゃん


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山本大樹

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山本大樹

(やまもと・だいき)編集・ライター。1991年生まれ、埼玉県出身。明治大学大学院にて人文学修士(映像批評)。編集プロダクション勤務を経て、2019年に独立。現在『クイック・ジャパン』外部編集・ライターのほか、『BRUTUS』、『オードリーとオールナイトニッポン』シリーズ、『三四郎のオールナイトニッポ..

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