『BEASTARS』が浮き彫りにした人間社会のグロテスクさ【オオカミとウサギ編】

2021.3.5

加害性なしに恋愛は成り立つか

『BEASTERS』の獣社会では、同種族での結婚が推奨され、ましてや肉食獣と草食獣の結婚には制度的にも大きな障壁が立ちふさがる。肉食獣と草食獣の恋愛は、“若き日の甘酸っぱい思い出”といった大人たちのノスタルジーの種として消費される程度の、非常に珍しいケースとして認知されている。そんな社会にあってレゴシはこともあろうに、あの日襲いかかってしまった相手であるハルに恋をしてしまう。

レゴシとハルが表紙になった『BEASTARS 第8巻』板垣巴留/秋田書店/2018年

それによってレゴシの恋愛は思慕の情、性欲に加えて贖罪、保護欲、そして食肉欲がないまぜになったものになる。この点については、非常に注意深く腑分けして考えていきたい。そうでなければ、グロテスクな構造を看過し内面化することになりかねない。

というのも、レゴシとハルの関係性はあくまでも食殺未遂の加害者と被害者として始まったものだ。であれば、レゴシのハルに向けられた思いを一点の曇りもない純愛とは見なせない。なぜなら、これを人間社会に照らし合わせたとき、性暴力の正当化につながってしまう恐れがあるから。

人間社会における恋愛感情も、加害性とまったくの無縁であると言い切ることはできない。DVやモラルハラスメントにつながる加害性、支配欲、立場の不均衡といった要素は誰もが持ち得るもの。そういった要素が純粋な思慕の情(というのものがあるとするならだが)と不可分に混ざり合い、恋愛感情を形成している。

作中では、レゴシの中で思慕の情と食肉欲とがないまぜになっている可能性が示唆された上で、食肉欲が完全に消し去れるものであるかどうかという点は明示されていない。

獣社会でも人間社会でも、加害性を完全に放棄することはできないのかもしれない。だからこそ自身の加害性を認め、よりフェアな関係性を構築するために間違いを重ねながら前進していく。それが真に真摯なスタンスであるということを、この物語が示唆しているように思う。

獣社会の多様性とインターセクショナリティ

この記事の画像(全10枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

『BEASTARS』を通して「弱さ」を考える【シカとライオン編】

「大丈夫!君は君のままで、きっとうまくいく」サンリオ初の男子キャラユニット「はぴだんぶい」の目指すもの

開き直らず、かといって責め過ぎずに「男である自分」と向き合うには――『さよなら、俺たち』書店員対談

エバース

「ウケるからやるは『M-1』では失敗する」。3位だったエバースは2026年、自分の感覚を信じる【よしもと漫才劇場10周年企画】

豪快キャプテン×ダイタク

ダイタク×豪快キャプテン、認め合うお互いの漫才の魅力「簡単そうに笑いを取る」【よしもと漫才劇場10周年企画】

三遊間×ゼロカラン

三遊間×ゼロカラン、人気投票との向き合い方の正解は?「やっぱり有名にならなあかんな」【よしもと漫才劇場10周年企画】

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

EXILE NAOTOが語る、「勝負する身体」がステージと水面で魅せる“攻めの0.1秒”。大きな影響を与えるオーディエンスのパワーとは【『SG第40回グランプリ』特別企画】

4年目の今、重荷だった「王子様」を堂々と名乗れる。Last Princeが語る、プリンスを背負う勇気と楽しさ

甲斐田晴/ローレン・イロアス/3SKMの撮り下ろし表紙を公開! VTuberのトップランナーたちを徹底解剖【春のQJ×にじさんじ祭り!】

ニューヨーク『Quick Japan』vol.181

ニューヨーク、60ページ総力特集「普通は勝てない?」を考える。バックカバーにはSHUNTO×MANATO×RYUHEI(BE:FIRST)が登場【Quick Japan vol.182コンテンツ紹介】