加害性なしに恋愛は成り立つか
『BEASTERS』の獣社会では、同種族での結婚が推奨され、ましてや肉食獣と草食獣の結婚には制度的にも大きな障壁が立ちふさがる。肉食獣と草食獣の恋愛は、“若き日の甘酸っぱい思い出”といった大人たちのノスタルジーの種として消費される程度の、非常に珍しいケースとして認知されている。そんな社会にあってレゴシはこともあろうに、あの日襲いかかってしまった相手であるハルに恋をしてしまう。
それによってレゴシの恋愛は思慕の情、性欲に加えて贖罪、保護欲、そして食肉欲がないまぜになったものになる。この点については、非常に注意深く腑分けして考えていきたい。そうでなければ、グロテスクな構造を看過し内面化することになりかねない。
というのも、レゴシとハルの関係性はあくまでも食殺未遂の加害者と被害者として始まったものだ。であれば、レゴシのハルに向けられた思いを一点の曇りもない純愛とは見なせない。なぜなら、これを人間社会に照らし合わせたとき、性暴力の正当化につながってしまう恐れがあるから。
人間社会における恋愛感情も、加害性とまったくの無縁であると言い切ることはできない。DVやモラルハラスメントにつながる加害性、支配欲、立場の不均衡といった要素は誰もが持ち得るもの。そういった要素が純粋な思慕の情(というのものがあるとするならだが)と不可分に混ざり合い、恋愛感情を形成している。
作中では、レゴシの中で思慕の情と食肉欲とがないまぜになっている可能性が示唆された上で、食肉欲が完全に消し去れるものであるかどうかという点は明示されていない。
獣社会でも人間社会でも、加害性を完全に放棄することはできないのかもしれない。だからこそ自身の加害性を認め、よりフェアな関係性を構築するために間違いを重ねながら前進していく。それが真に真摯なスタンスであるということを、この物語が示唆しているように思う。
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