開き直らず、かといって責め過ぎずに「男である自分」と向き合うには――『さよなら、俺たち』書店員対談

2020.10.20

文・写真・編集=碇 雪恵


『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ 著/斎藤真理子 訳/筑摩書房/2018年)の発売をひとつの契機に、フェミニズムに関連する書籍が続々と発売されている。SNSでもジェンダーやフェミニズムに関する話題が尽きないなか、2020年7月に発売された清田隆之『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)は、男性自身が自分の個人的な体験を交えながら男性性について考察する貴重な一冊だ。

男性書店員であり書店経営者でもある伊野尾宏之さん(伊野尾書店)とコメカさん(早春書店)に、『さよなら、俺たち』に至るまでの出版の傾向、本書を読んだ感想、そして男性自身が男性性について考えるための関連書籍について語ってもらった。

伊野尾宏之
(いのお・ひろゆき)1974年東京生まれ。「伊野尾書店」店長。大学卒業後、2年間のフリーターを経て1999年、父親が創業した家業・伊野尾書店で働く。2008年および2019年にDDTプロレスの協力で書店でプロレスを開催するイベント「本屋プロレス」を開催。ブログ『伊野尾書店WEBかわら版』不定期更新中。

コメカ
1984年生まれ。2019年オープンの国分寺の古本屋「早春書店」店主。テキストユニット「TVOD」でも活動し、サブカルチャーや社会についての批評を展開。2020年1月に、TVODとして初の単行本『ポスト・サブカル焼け跡派』(百万年書房/2020年)発売。ソロのライターとしても『文春オンライン』などに執筆。


稼げない時代+フェミニズム=『さよなら、俺たち』?

――『さよなら、俺たち』が世に出るまでには、どんな出版の流れがありましたか?

伊野尾 「サブカル」と呼ばれるものに親しんできた人が自分の性について語るという意味で、自分が最初に認識したのは雨宮まみさんですね。

コメカ ああ、そうですね。あと、雨宮さんが可視化させた「こじらせ女子」以前には、酒井順子さんによる「負け犬」という言葉もありましたね。

保守的な日本社会のなかで、「未婚・子なし・30代以上」という生活・キャリアを送る女性の姿を、あえて自虐的に言語化したのが「負け犬」。そして酒井さんの10歳年下の雨宮さんの世代になると、当人の自意識とか承認欲求の問題がもっとクローズアップされてくるというか……。

伊野尾 僕たちは「自意識第一世代」みたいなところがあるかも(笑)。雨宮さんが76年生まれで、僕は74年生まれなんですけど、我々の上はもうバブル世代です。

コメカ 雨宮さんの『女子をこじらせて』(ポット出版/2011年)や漫画の『モテキ』(久保ミツロウ/講談社/2008年~2010年)が出てきた2010年前後に、70年代生まれの世代による、広い意味での自意識語りが注目を集め始めた印象がありました。社会でのキャリア的な自己実現と同じかそれ以上に、当人の自意識や内面の在り方が論点になるというか。

74年生まれということは、ホリエモンと同世代ですか?

伊野尾 そうですね。僕が2個下。

コメカ ああいう心情ってわかります?

伊野尾 ホリエモンの心情がわかるってことはないけど、ホリエモンに憧れる心情はわかる。最初にバーンと売れたのが、『稼ぐが勝ち』(堀江貴文/光文社/2004年)。年功序列で出世して、みたいな旧来的な価値観で生きてくしかないとみんなが思ってたなかで、「普通の会社に入らなくたってこうやって成功できる!」ってわかりやすく打ち出したのが彼だったから。閉塞感を打ち破る意味では、一番インパクトのあるデビューだったと思う。

コメカ その時期ってもう販売してた側ですか?

伊野尾 もう本屋で働いてました。注文出したの覚えてるから(笑)。

対談は伊野尾書店で行われた

コメカ じゃあお客さんに求められてるなって感じはあったんですね。

伊野尾 ありましたね。いつの時代もビジネス書にはそういうトリックスターみたいな存在が出てきて、それこそ箕輪厚介も一瞬そういう座にいたと思うんですけど。

一方で2010年後半になると、社会的な成功よりも「自分らしく生きる」スタンスのほうが共感を得やすくなっていきました。ビジネス書とも呼びにくいような、phaさんとかえらいてんちょうさんが書いているオルタナティブな生き方の本。無理のない範囲で好きなように生きていければいいっていう考え方のほうが、共感を得やすくなってる。特に若年層はその傾向ですね。

コメカ 実際、稼げないですからね。

伊野尾 「稼ぐが勝ち」的なものに対して冷めた目で見る人も増えましたね。逆に清田さんの本が2000年代前半に出たとしても、今のような受け入れられ方にはならなかったのかも。

コメカ 僕のなかでは、堀江貴文や箕輪厚介的なものが訴求力を失いつつある流れと、フェミニズムがこれまでよりも広い範囲で浸透しつつある流れがクロスした場所に『さよなら、俺たち』があるのかなと思いました。

理屈よりも大切なのは、実際に家事をしているかどうか

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碇 雪恵

(いかり・ゆきえ)北海道札幌市出身。出版取次会社や出版社での勤務を経て、現在はフリーランス。ライター業や出版社の営業代行を請け負う傍ら、ウェブサイト『WEBmagazine温度』運営、新宿ゴールデン街「月に吠える」店番なども。

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