開き直らず、かといって責め過ぎずに「男である自分」と向き合うには――『さよなら、俺たち』書店員対談

2020.10.20


理屈よりも大切なのは、実際に家事をしているかどうか

コメカ まず、清田さんがこの本の中で「beingとdoing」という論点を出してきたところがおもしろいですよね。

――beingは「自分が何を考え、何を感じ、どんなことを思いながら生きているのか」で、doingは「結果や実績、役割や能力」と書かれていますね。

コメカ 清田さん自身は80年生まれで、doing偏重時代の文脈を生きてきた人だと思うので、実際にdoingで認められようと必死だったと。

伊野尾 beingとdoingの話とか、「さしすせそ」(※男性を褒めるときに使う「さすが!」「知らなかった!」「すごい!」「センスいい!」「そうなんだ」 )の話の中で、男性が女性からの賞賛を得ないと自尊心が得られないって指摘は、すごく印象に残りましたね。

コメカ この本が社会の構造を解説するような学術書と異なるのは、自分のこれまでや現在を正直に省みて、率直に語ってる部分ですよね。

一番印象的だったのは、「『だったらひとりで生きればいいのでは?』と絶望される前に」という章。家事について考えるなかで、結局これまでの自分が、すべての時間を自分のためだけに割いてきてしまっていたことにハタと気づく展開があるんですよね。

自分のことを振り返ってみても、理屈では男性中心主義社会を批判するようなことを考えていても、いちサブカル男性としては、生活のほとんどの時間を結局自分のために割いてきてしまったので。今でも、一緒に暮らしてるパートナーに指摘されて初めて自覚するようなことがたくさんある。どれだけ偉そうに理論を振りかざしていても、生活の中で他人に家事を任せっぱなしじゃなんの説得力もないですよね…。

伊野尾さんはご結婚されていますか?

コメカ氏

伊野尾 はい。奥さんと子供がふたり。奥さんも同じ店で働いています。

コメカ 家事は分担してますか?

伊野尾 してますね。子供ができてからは徐々に分担するようになりました。

コメカ それまでは家事を主体的にやってる感覚ってありましたか?

伊野尾 いや、これははっきり伝えておきたいことなんですが、最初は「手伝ってやってる」っていう感覚でした。

コメカ 自分の時間を削られるのが嫌だなって感覚はありましたか?

伊野尾 やっぱありましたよ。イライラしちゃったりして。

コメカ それはどう落ち着けたんですか?

伊野尾 慣れです。体を慣らす。今となっては申し訳ない話だけど、最初は「なんで俺が……」って思いながらお風呂洗ってて。だけどやってるうちに「育児してる間にこれをやってたのか」って気がついて、それで「もうちょっと労わないと」って発想が出てきましたね。

コメカ この本の家事の部分を読みながら、思い出す部分ってありますか?

伊野尾 ありますあります。奥さんのほうが自分より明らかに家事能力が高いんです。たとえば料理をしたあとにキッチンをきれいに片付けたつもりが、「拭き残しがある」って指摘されて、最初のころは「じゃあ自分でやれば」ってイライラしたりして。

だけど変な話で、上の子が小学校5年のときに皿洗いをやらせてみたら、全然洗えてなくて汚いんですよ。そのときに「俺が言われてたのはこれか!」と思って。

伊野尾宏之氏

コメカ なるほど……。子育ての過程で気がついたんですね。

僕自身は、生活というものを未だにちゃんとわかってないところが自分にはある気がしています。頭ではわかってるつもりでも、本を読んだり文章を書いたりすることに気持ちが持っていかれてしまってるところがあるというか……。自分がいかに、カルチャーと呼ばれるものの上に自尊心を組み立ててきてしまったのかってことを、ここ最近考えていますね。

元チャラ男でコミュ力高いからこそ、これが書けた


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Written by

碇 雪恵

(いかり・ゆきえ)北海道札幌市出身。出版取次会社や出版社での勤務を経て、現在はフリーランス。ライター業や出版社の営業代行を請け負う傍ら、ウェブサイト『WEBmagazine温度』運営、新宿ゴールデン街「月に吠える」店番なども。

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