映画『ミッドナイトスワン』で草彅剛が見せた日常の可能性──女でも男でもない“いちばん最後の顔”

2020.9.24

オンもオフも脱ぎ捨てた、原初の相貌を銀幕に刻みつける

この映画の草彅剛を見つめていると、人間は、いかに、オンとオフとを自由に行き来しているのかを知り、呆然とする。私たちの日常には、これだけ豊かなバリエーションがあって、可能性に満ちているということでもある。

本作では俳優・草彅剛の真価が発揮されている

オンとオフを「建前」と「本音」と解釈するべきではない。人間の「素顔」はオンの時間に表れることもあるし、オフのひとときに「演じている」ことだってある。だからこそ、オンとオフの交通には意味があるとも言える。草彅剛の表現は、主人公の内的な葛藤と、外的な交流を、出逢わせ、そのいずれもが等価であることを、指し示す。

もちろん、主人公の性に、オンとオフを行き来する必然性があることは言うまでもない。だが、そうしたことを超えて、ここには人間の普遍性が映っている。

人は、無数のオンと、いくつものオフを生きている。

ひとりでいてもオンのことはあるし、誰かといてもオフのことはある。私たちの生は、無限なのである。

撮影は2019年10月から2020年6月にかけて行われた

ここで綴られる彼女と少女の、「新しい関係性の物語」には触れずにおこう。なぜなら、それは、観客がスクリーンで直に接することでしか、顕在化し得ぬ奇跡だからである。

ただ、これだけは明言しておきたい。最終盤、彼女は、たったひと粒のオンと、たったひと粒のオフを、混ぜ合わせ、オンも、オフも、脱ぎ捨てた、原初の相貌を、銀幕に刻みつける。

それは、生まれたての顔であると同時に、いちばん最後の顔でもある。

女でもなければ、男でもない。振る舞うわけでも、演じるわけでも、こぼれるわけでも、あらわになるわけでもない。ただ、そこにある顔。

ヒロインの名は、凪沙。彼女のその表情を目撃するために、劇場に駆けつけていただきたい。

この記事の画像(全19枚)



  • 映画『ミッドナイトスワン』

    2020年9月25日(金)全国ロードショー
    監督・脚本:内田英治
    音楽:渋谷慶一郎
    出演:草彅剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
    配給:キノフィルムズ
    (c)2020 Midnight Swan Film Partners

    関連リンク


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

“テキトー一笑懸命”。香取慎吾の真髄が詰まっていた『あさイチ』(てれびのスキマ)

『水ダウ』の「古今東西知名度ランキング」アンダー60で唯一トップ10に入る中居正広の凄まじさ(てれびのスキマ)

『ガキ使』にて「稲垣吾郎の100のコト」。サービス精神あふれる回答続出(てれびのスキマ)

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】