【本人コメントあり】『長谷川あかりエッセイ大賞』入選作発表! 優秀賞「同じ悩み、違う味」

2026.10.15

TOP画像撮影=大嶋千尋

編集=Quick Japan編集部


2026年8月発売の『Quick Japan』vol.185では、料理家・長谷川あかりを特集。SNSをのぞけば、今日も誰かが「あかりレシピ」を作っている。何度も作るお気に入りができたり、料理をすることへのハードルが少し下がったり。

レシピをきっかけに生まれた、それぞれの暮らしの話を聞いてみたい。そんな思いから、特集の連動企画として『長谷川あかりエッセイ大賞』を開催、彼女のレシピにまつわる作品を読者から募集した。ここでは、長谷川あかり自らが選考した優秀作を、本人の寸評とともに掲載する。

【レシピカードデッキ付き限定版】『Quick Japan』vol.185 【通常版】『Quick Japan』vol.185

ほかの入選作はこちら!
大賞「余熱」
優秀賞「家事の分担」
優秀賞「豆腐の『ケ』」
優秀賞「ちゃんと、生活をしていく」

優秀賞「同じ悩み、違う味」(作者:スパ)

一日の始まりは、お味噌汁の悩みから始まる。

二十代後半に差し掛かり、周りの雰囲気に流されるように健康への意識、というのが日常のいろんな場面で影響するようになってきた。朝にできるだけお味噌汁を食べるようになったのも「発酵食品となんかあったかいものが良い」というふわっとした聞きかじりの知識のもとにできた習慣だ。特に最近は「ハムエッグ味噌汁」なるレシピを知ったおかげで、さらに美味しく朝味噌汁を楽しめるようになった。長谷川あかりさんこのレシピを世の中に教えてくれてありがとう。しかし、そんな楽しい習慣にも、悩みというものは存在する。

ハムエッグの卵をいつ割るのか? 些細なことと思う人も大勢いるだろうが、私にとっては大きな難題だ。親子丼など、上に卵を乗せるようなものなら、卵を割ってしまってもある程度仕分けができるが、汁物はそうはいかない。卵を混ぜる前と後では、全く違う料理である。食べる前にすぐ? ちょっとだけ卵なしを味わってから? 大体半分食べてから? 終盤に豪華に? あえて卵だけ味わう、という手もある。卵の楽しみ方は多種多様。どれも等しく美味しいので、毎朝毎朝、食べ方に困ってしまう。多分、究極の解決方法は、一食で何杯も食べて毎度違う食べ方を楽しむ、というものだろうがお腹には限界が存在する。というか一度それを休日に試して酷い目にあった。何事も適量が大切ですね。

選択肢で悩めるということは、贅沢、ではあると思う。幼少期、日曜のお昼は絶対にミートソースパスタであることに不満を抱き、弟と一緒に親に向かって激しく抗議活動を起こしたことがある。あの時は「この日はいつもこの味この料理」という同じ味の反復が本当に嫌だった。今思うと、親には申し訳ないことをしたと思う。多分反抗期も兼ねてた。

選ぶということは、難しい。毎日の献立だって、決めてもらったほうがストレスが少ない。でも私は、その悩む時間が嫌いではない。むしろ、朝のお味噌汁を前にして、「今日はいつ割ろうかな」と考えている時間が、案外好きなのかもしれない。毎朝同じように始まるように見えても、卵を割るタイミングひとつで、今日の味噌汁は少しだけ違うものになる。そう考えると、私は多分、食事に「正解」があることよりも、正解を自分で決められることのほうが好きなのだ。同じ味を反復するより、毎日違う味を楽しんでいたい。

だからなのか、私は卵料理の中でも目玉焼きが好きだ。目玉焼きはまず、黄身の状態を決めるところから始まる。半熟? 柔らかめ? 硬いのも捨て難いし、両面焼きだってできる。そこから、何をかけるのか、という選択肢。醤油? ケチャップ? マヨネーズ? キムチをのっけたり、バターで食べたり、塩胡椒でシンプルに食べるのも悪くない。黄身から食べるか、白身から食べるか、卵を割るタイミングは? そもそもパンと一緒に食べる? それともご飯? そのままいっちゃう? 増える増える選択肢。味の種類。卵の可能性。

可能性といえば。長谷川さんのYouTubeやエッセイを読んで、あえて味のムラを残すという楽しみ方があることを知った。これからの朝食では割るタイミングと濃淡についても、考えていきたい。混ぜずにいたら卵があるとこないとこで濃淡を楽しめるんじゃないかな。お味噌汁で濃淡という概念が存在するのか、そこから確かめることになるかもしれないけれど。

明日の朝も、私は味噌汁を前にして悩む。なんて楽しくて、贅沢な悩みだろうか。

長谷川あかり寸評

ハムエッグの卵。最初はそのまま食べ、途中で黄身を割る。あるいは最後まで割らずに食べ進める。正解はない。ただその日の気分で食べ方を決める、その小さな選択が、毎朝のなんてことない食事を新鮮なものにしてくれるのだと思います。明日の朝はどう食べようと悩めること自体が、たしかにとても贅沢です。こういう自由をこれからも手放さずにいたいですね。一緒に大事にしていきましょう。

『Quick Japan』vol.185 長谷川あかり特集号、好評発売中!

『Quick Japan』vol.185 表紙/撮影=長島有里枝

2026年8月25日(火)発売
サイズ:A5/並製/144ページ
定価:1,650円(税込)

コンテンツ内容
長谷川あかりロングインタビュー
SP対談:×脚本家・野木亜紀子、×俳優・黒木華
寄稿企画:谷口菜津子(マンガ)、絶対に終電を逃さない女(エッセイ)、男性ブランコ・平井まさあき(エッセイ)

「長谷川あかりレシピカードデッキ」付きセットをQJストア限定販売!

『Quick Japan』公式ECサイト「QJストア」では、本誌と特製「長谷川あかりレシピカードデッキ」(32枚入り)のセット版を販売。

カードには長谷川あかりのレシピ(全32品)を収録。「何が食べたいか」ではなく、「今日は休みたい」、「寄り道したい」、「少し挑戦したい」といったその日の気分を入口に、思いがけない「今日のひと皿」と出会えるレシピデッキとなっている。

カードをシャッフルして引き、そのときの自分にしっくりくる1枚を探していく。最初に引いたカードを必ず受け入れる必要はなく、気になるカードが見つかるまで何度引き直してもOK。

〈遊び方〉
STEP1:カードをよくシャッフルする。
STEP2:適当にカードを引く。
STEP3:表面に書かれた「気分」と料理写真を眺める。
STEP4:もしピンとこなければ、もう1枚引いてみる。気になるカードが見つかるまで、何度引き直してもOK。
STEP5:「これかも」と思うカードが見つかったら裏返す。その日の気分に寄り添うレシピが現れる。

【レシピカードデッキ付限定版】『Quick Japan』vol.185 【通常版】『Quick Japan』vol.185

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