少子化の原因は「女性の幼稚化」40代大手広告マンの“優秀な母親の条件”【#03後編/ぼくたち、親になる】

文=稲田豊史 イラスト=ヤギワタル 編集=高橋千里


【連載「ぼくたち、親になる」】
子を持つ男親に、親になったことによる生活・自意識・人生観の変化を匿名で赤裸々に語ってもらう、独白形式のルポルタージュ。聞き手は、離婚男性の匿名インタビュー集『ぼくたちの離婚』(角川新書)の著者であり、自身にも一昨年子供が誕生したという稲田豊史氏。

どんな語りも遮らず、価値判断を排し、傾聴に徹し、男親たちの言葉からそのメンタリティを掘り下げ、そう発言させている「社会」のありようと分断の本質を考える。ここで明かされる「ものすごい本音」の数々は、けっして特別で極端な声ではない(かもしれない)。
▼本連載を通して描きたいこと:この匿名取材の果てには、何が待っているのか?

第3回は、大手広告代理店プランナー職の40代男性。セルフブランディングと自意識の制御のために“子供がいることを隠している”が、伝統的家族観には賛成しているという。「人間は子供を作るのが当然」「子供を持たないと宣言する奴はアホ」と語る彼が、さらなる持論を繰り広げる独白の後編。

大手広告代理店でプランナー職を務める伊賀宏樹さん(仮名、43歳)は、子供がいることを周囲に明かしていない。「父親」という社会的属性は、自由で気楽に振る舞いたい彼にとって邪魔だというのだ。

しかし一方で、伝統的家族観には賛成で、「子供を持たないと宣言する奴はアホ」であるとも言い放ち、対人関係ごとに異なる人格を使い分ける「分人主義」を実践する。

そんな伊賀さんは、サブカル文化系男子にとって最適なパートナーの選び方や少子化の原因にも一家言あるようで……。

※以下、伊賀さんの語り

子供ができても“趣味の時間”は減っていない

「子供ができて、趣味の時間や仕事のためのインプット時間が減ってつらい」という男性の話をわりと聞きますけど、僕はそんなに変化がなかったです。

映画も読書もレコード収集も筋トレも食べ歩きも、自分で時間のコントロールができるタイプの趣味ですし、会社の勤怠管理もゆるいので、平日でも時間を見つけていろいろできる。

これが鉄道模型みたいな、家で場所を取ってやるタイプの趣味だと、奥さんの手前つらいでしょうけど。

※画像はイメージです

あとは単純に僕の性格として、「時間がなければやらなくていいや」となるんです。あの映画観なきゃ死ぬ!あの店で飯食わなきゃ死ぬ!とか、全然ない。歳を取ってそういうのはなくなりました。

たしかに仕事ができる時間は減りました。以前は午後10時以前に会社を出るのは稀で、頻繁にタクシーを使っていましたが、子供が小さいうちはなかなかできません。

ただ、コロナ禍で職場の働き方改革が進み、早く帰ることが推奨されたので、結果よかったと思ってます。

結論、子供ができたから時間を取られて困った、と思ったことはありません。そこまで悩んでる人がいるのは、ちょっと意外かな。

サブカル者は「共通の趣味」で結婚相手を選ぶな

幸運だったのは、妻が僕の趣味活動に何も文句を言わないことです。

理解があるというよりは無関心。僕が趣味で買ってくるアナログレコードに「なんで買うの?」とか言わない。オタクやサブカル好きに絶対言っちゃいけないことは、言わない。

妻と共通の趣味がひとつもないんですよ。子供ができても結婚生活がうまくいってるのは、それが大きいと思います。

よくサブカル好きの男性が、趣味が同じ人と交際して結婚するケースがあるじゃないですか。

あれがダメなんですよ。

夫婦で共通の趣味や話題がたくさんあると、子供ができてお互いの可処分時間が減ったとき、あまり減ってないほうが多く減ったほうに必ず嫉妬されます。たとえば「私はあの映画を観てないのに、あなたは観てる! ズルい!」って。

その点、共通の趣味も話題もなければ、不公平の感情が生じにくい。互いの趣味に干渉しない、興味も持たないことが、夫婦円満の秘訣なんです。

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そもそも子供がいようがいまいが、夫婦が趣味でつながっていること自体が危険です。

パパ友の集まりで知り合った、僕ら夫婦より若いオーディオマニアの夫婦がいるんですよ。彼らはドイツ製の高価なスピーカーシステムを買いそろえたりしています。

でも、趣味って永遠じゃない。どちらかが飽きたり冷めたりすることもあるし、若いころほど熱意がなくなっていくこともある。

だから老婆心ながら、その夫婦が心配なんです。趣味への熱意が今ほどではなくなったとき、果たして今の関係性を維持できるのかな、と。

そりゃあ僕も若いころは、共通の趣味を持つ人と付き合っていましたし、まわりにもそういう人しかいませんでした。

でもあるとき気づいたんです。昔からよくいわれてますけど、「交際するべき相手」と「結婚するべき相手」は違うと。

もっといえば、子供がいる場合といない場合とではさらに違う。「名選手、名監督にあらず」。交際相手として優秀な女性と、母親として優秀な人は違うんです。

少子化の原因は“女性の幼稚化”

「母親として優秀」に引っかかりますか? じゃあ、ちょっとこんな話をさせてください。

僕、少子化については思うところがあります。

原因の根本は、僕たち世代がベビーブームを起こせなかったからでしょうが、その下の世代以降もダラダラと出生率が下がっていったのは、女性が“幼稚化”したからじゃないでしょうか。

女性が幼稚に振る舞っても許される社会になってしまった。僕のいる業界や近隣業界を中心とした観測範囲では、特に顕著です。

※画像はイメージです

よく「女性が経済的に自立して男性に依存しないで済むようになったから、結婚や出産が当たり前ではなくなった」といわれますけど、自立ってそういうことじゃないですよ。

ある一定の年齢になったら子供を作り、母として育てる。それが人間としての自立ですよ。もちろん男性なら父になる、です。

なのに今は、「なんとか女子」って言い方が横行しているように、女性が30代後半になっても「女子」扱いされる。幼く扱われるし、むしろ年齢より幼めに振る舞ったほうがいいという価値観に支配されています。

結果、いつまで経っても、昔のように社会から「結婚しろ、家庭に入れ、母になれ、主婦になれ」という圧を受けなくなった。だからいつまでも幼い状態がダラダラ続く。

他方で、企業では女性がもてはやされて、企業内での女性の価値が上がっている。うちの会社でもそうです。

それ自体はとてもいいことですが、言い方は悪いけど、女性がそれで「満足」しちゃってる。人間的に幼いままでも、仕事さえできれば評価されるから、それ以上、人間として自立しない。

しかも、そのまま「私は子供を持たない人生だ」で最後まで突っ切れればいいけど、多くの人が途中で息切れしちゃう。そういう人をたくさん見てきました。

でも、もう年齢的に子供は作れない。時すでに遅し、あとの祭りです。

フェミニズムを前面に出しながら子供がいなくてそこそこ活躍している女性に憧れて、「子供がいなければ彼女みたいになれる」と思い込んでいる女性も、肌感覚としてけっこういる気がします。

でもこれって、必要条件と十分条件を取り違えてますよね。「大学なんか行かなくても、YouTubeで学んでブログで成功した」を真に受けるみたいなもの。

圧倒的に能力があって成功する人は、大学に行こうが行くまいが成功するけど、バカは「大学に行かないことが成功の条件」みたいに思い込む。

それで大学を中退して、オンラインサロンの会員になって詰む。あとの祭りです。

「幸せ」はコンテンツ力が弱い

僕は伝統的家族観の持ち主なので、ひと昔もふた昔も前の「結婚して子供を作り、育て上げてこそ一人前」という考え方についても「別にそれでいいじゃないか」という立場です。

実際、多くの大企業はいまだにそういう基準で社員を評価してますよ。表立って言わないだけで。会社にしてみれば、結婚している社員は安心して出世させられるし、安心してマネジメントを任せられる。

僕が20代のころ、すごく早く結婚した信販会社勤務の友人に、なんでそんなに早く結婚したのか聞いたら、「出世したいから」と言っていました。

当時の僕は、すごくバカでくだらない考え方だなと思ってたけど、今は違います。そのとおりですよ。

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結婚できない奴が「結婚してないと出世できないのは差別だ」って言いふらすのは、ある種の生存戦略です。不当だと叫ぶことで自分を守っている。なんだかなあと思います。

今の日本は、逆説的な意味で多様性がない。多様性が大事だなんて言いながら、弱者側の理論が異常に大手を振って歩いてる。

一方の強者は、炎上したくないし、やっかまれたくないから黙っている。結婚して、子供がいて、うまくいってる人は、ネットで意見なんて言いません。

X(旧Twitter)で不特定多数に向けて何か言うなんて、とんでもない。だいたい、「幸せ」はコンテンツ力として弱いんです。

子供は大事な“投資対象”。ものすごいリターンがある

本当に頭がよくて金持ってる奴ほど、子供がすごく大事な“投資対象”であることに気づいています。

彼らは子供に金がかかって困るとか、自分の時間が取られてつらいなんて、ポーズ以外では言わない。だって、ものすごいリターンがあることを知ってるから。

※画像はイメージです

これは綺麗事でもなんでもなくて、子育ては本当に楽しいんですけど、なかなか伝わらないし、伝えようとしたところで、「子育てが楽しいなんて嘘でしょ?」「既存の価値観でモノ言ってるだけじゃないの?」って言われてしまう。

でも、既存っていうけど、人間社会は何千年も何万年も、これでうまくやってきたわけだから、価値観として強度があるに決まってる。そんな簡単にひっくり返るものじゃない。

だから何度でも言います。子供を作れるのにあえて作らない人たちは、取り返しがつかないことをしてるんですよ。本当に、つくづく、かわいそうだなって思います。

聞き手・稲田氏の取材後所感:「サブカル文化系」と「人の親」を両立させられる条件

※以下、稲田氏の取材後所感

対外的には「子供がいない自由人」というセルフブランディングを徹底し、「父親である」ことに責任を負いたくないと口にする一方、伝統的家族観の持ち主としてゴリゴリの保守志向を貫く伊賀さん。

見事な分人主義の実践、鮮やかなライフハック、戦略的な人生。ただ、その“両取り”にはどこか「ズルい」という感想を抱いてしまった。

とはいえ、自分の見え方と自意識についてここまで考えを突き詰め、分人主義を実践する姿勢は清々しくもある。

伊賀さんは取材の最後に、「家庭との両立に悩むオタクやサブカル系男性には、ぜひ分人主義をおすすめします」と言った。

サブカル文化系としてキープしたい気ままなメンタリティと、責任ある「人の親」であることを、アイデンティティのレベルで破綻なく両立させるのに、伊賀さん流のライフハックは有効なソリューションなのだろう。

ただし、それを実践できるだけの状況が、すべての文化系男子にあるとは思えない。

伊賀さんは、子供ができても趣味やインプットの時間が減ったとは感じていないと言ったが、夫婦の家事育児分担について問うてみたところ、こんな答えが返ってきた。

「圧倒的に妻がやっています。僕は全然やってません。サッカーの送り迎え程度かな」

ちなみに、彼の勤める大手広告代理店の40代社員の平均年収をざっと調べてみると、1000万円を超えていた。妻の年収額は聞かなかったが、世帯年収は推して知るべし。

さまざまな意味で、伊賀さんのライフハックは、あまねくすべての男たちにとって再現性があるとはいえないのではないか。

ところで、「女性の自立」についての独特の定義披露や、「女性の幼稚化」「子供は投資対象」「かわいそう」といった、聞く者をざわつかせる、あるいは苛立たせるワードチョイスは、彼のサブカル文化系としての性質から来るものなのだろうか。

あるいは、これも彼なりの“セルフブランディング”の一環なのだろうか?

※編注:記事冒頭に連載の概要を追記しました(2023年10月18日)

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稲田豊史

(いなだ・とよし)1974年愛知県生まれ。ライター・コラムニスト・編集者。映画配給会社、出版社を経て、2013年に独立。著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ──コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の..

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