ひきこもった息子に気づかれないようにやっていたこと
──秀人さんが高校を中退したときはどのような感覚でしたでしょうか?
母 どの高校でしょう?(笑) 高校っていうものにもう行かないって言ったときかしらね? 私は学校って普通に行って目立たないで、真ん中くらいの成績を取って卒業しちゃうのが一番簡単だと思ってるんですけど、それなのに辞めるってすごくエネルギーのいることだと思いましたよ。だから、辞めるというのはよっぽどのことだと思いました。
同時に、またそんな目に遭わせちゃったなって思いました。本人が悪いというよりは、「(秀人を)うまく乗せてやれずにまた失敗しちゃったな」という感じ。
──なかなか本人の居場所が見つけられないというか……。
母 あ、でも、私立を辞めて都立の高校に入ったとき、明日が入学式という日に、内心「どうかな〜」って思ってたら、秀人が急に青々した丸刈りにしてきたんです。「丸刈りだったら行けるかもしれない」って。
それは本当に予想もできなかったし、共感もできなかったです。でも、大成功でね。教室に入ったら「中学で野球部だったの?」ってまず何人かに聞かれて野球部の勧誘があったんですって。
それと、人に見られるのがすごく怖かったんだけど、あえて丸刈りで目立つことによって「人は丸刈りだから僕を見るんだ」って思えば怖くないと言ってました。また感心しちゃいけないんですけど、なるほどねってすごく感心して。
──それは機転を利かせるというか、すごい発想ですね。
母 そのあと、同じ手法はかなり私の仕事(臨床心理のカウンセリング)で使いました。学校とか職場に行けない人に、「そういう手もあるわよね」って紹介したら、坊主にした人はいなかったけど急にすごい金髪にした人とかすごい目立つメガネをかけてたらなんか行けるとか、そういう人がけっこういました。あれはいい手かもしれない。
──高校を辞めて、仕事も辞めて、秀人さんがひきこもるようになってから、秀人さんの生活はどういう感じでしたか?
母 昼夜が逆転してましたね……昼間、外に出にくいですよね。昼間、外に出てたら職務質問か何かをされたそうで、「学校に行ってる時間じゃないの?」と。みんなが学校行ってる時間に自分だけが家にいるのってけっこうつらいと思うんですよ。ひきこもりの子は昼夜逆転して深夜に部屋から出てきて食事したりテレビ観たりしてる子が多いみたいだけど、それはそうだろうなと。
──本人にこれからどうするかを確認したりはしましたか?
母 それはほとんど聞きませんでした。受験の時期になると「今年はどうしてみる?」というのは聞きましたけど。こうしなさいとは言わなかったですね。
──「どうしてみる?」という聞き方は、答えるほうが選んでもいいし、選ばなくてもよかった。
母 どこかで遊び回ってるというんだったら捕まえて来て、「どうするの!?」と言うと思うんですけど、ずっと昼間からテレビの前に座っていましたから。テレビを観てはないんですよ。呆然と何かを考えてる。追い詰めると危ないなと思ってました。あの時期はなんとか無事に過ごして、何かが見つかるといいなと思って、あまり多くは聞きませんでした。
──秀人さんに気づかれないように本人のためにやっていたことはありますか?
母 気づかれないようにやってたからあまり言いたくないですけど、チラシや新聞に載ってる広告とかは目を引くかなっていうところにあちこち置きました。「こういうのがあったけどどう?」と言って渡すのは強制してる感じがして嫌だから、それとなくわざとらしく置いてました。そしたら「俳優してみませんか?」という広告に釣られたんですよ。
──ちゃんと読んでたんですね。
母 そうですね。これはヒットじゃなくてホームランです! 当時私が、市民向けの、不登校の親の会があって行ってたんですよ。ひとりだけだと耐えられないので、ほかにも「うちの子はね……」と一緒に話すのは精神的によかったから。そこで「俳優してみませんか?」講座が隣の部屋で始まりますというチラシを見つけたんです。
──そこから、今の「岩井秀人」が生まれた。
母 とっても運がよかったというか、そこで巡り合った人が素晴らしかったと思います。
■岩井秀人「ひきこもり入門」第4回・後編「母に聞く、ひきこもった子供に親ができること」は、2020年11月14日配信予定
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岩井秀人 最新情報
ハイバイでは9年ぶりの再演となる代表作『投げられやすい石』が11/18(水)より東京芸術劇場を皮切りに、長野、三重にて上演予定。各種チケット受付中、詳しくは公演特設サイトにて。
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【連載】ひきこもり入門(岩井秀人)
作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごした。
のちに外に出て、演劇を始めると自らの体験をもとに作品にしてきた。
昨年、人生何度目かのひきこもり期間を経験した。あれはなんだったのか。そしてなぜ、また外に出ることになったのか。自分は「演劇ではなく、人生そのものを扱っている」という岩井が、自身の「ひきこもり」体験について初めて徹底的に語り尽くす。
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