岩井秀人「ひきこもり入門」【第4回前編】母が語る、ひきこもりの子供を持った親としての目線

取材=池田 亮 構成=岡本昌也
撮影=平岩 享 編集=森山裕之


作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごし、のちに外に出て演劇を始めると、自らの体験をもとに「人生そのもの」を作品にしてきた。

なぜ自分があのときひきこもったのか。自身の体験について、自分の目で見たことを、自分の頭で考えたことを語ってきた。そのとき、同じ家にいた家族は何を思っていたのか。

岩井秀人の母に話を聞いた。


息子が父親にやり返したとき

──秀人さんの幼少期に、印象に残っている思い出はありますか?

母 すごくよく泣く子でした。わりと大きな身体で生まれたので赤ちゃんのころはそんなに手はかからなかったんだけど、とにかくよく泣きました。3人目の子供なので小さいときは、驚くようなことはそんなにありませんでした。「小さいときは」ね(笑)。成長するにつれて、びっくりすることがたくさん増えました。

──びっくりすることが増え始めたのは秀人さんが何歳くらいのときですか?

母 5歳くらいからですね。でも、うちは兄妹みんなびっくりがいろいろあって、「どうしてあんなに違う種類の子供を育てられるんですか?」って学校の先生に聞かれたこともあります。子供のタイプが全員、違うんですよね。

──ちなみにどういうタイプに?

母 長男は、すごく慎重な子でした。言葉も、全部自分で話せるようにならないと話してみない。歩くのも、あそこまで行けると思わなかったら歩いてみない。

長女は、全然立てもしないのに歩こうとして頭から転んじゃうみたいな、すごく冒険心の強い子で。年中ゆっくり歩くことがなくて、いつでも走ってる。

その次が秀人だったので、私もちょっとやそっとのことでは驚かなくなってました。なかなか保育園とかの環境になじまない子で「注意欠陥性多動性障害」っていうのがあって、かなりのその線だったと思います。じっと座ってないで常に歩き回ってる。

でも、秀人は知らない場所に行ったりするのがすごく好きで、どこでも楽しそうに行く子でした。だから大きくなって学校に行かなくなるとは全然思わなかったです。いつもニコニコ楽しそうにしてて、別に楽しくないことでも本人はなぜか楽しそうで心配でしたけど。

──秀人さんの幼少期の行動で笑ってしまったことはありますか?

母 たくさんありました。本当は悩まなきゃいけなかったことなのかもしれないですけど。一番笑ったのは、1歳くらいで、自分でものが食べられるようになりますよね。すると、食べ終わったあとのお皿を必ず頭に被っちゃうんですよね。たとえばナポリタンとかがお皿に残っててもあっという間に被っちゃう……たぶん1回それをやってウケたから、味をしめてずっとやってたんでしょうけど。汁物なんかが入ってると大変でした……そういうのはほかの子は全然やらなかったので独特でしたね。

──被る前にお皿を下げちゃうと不満を示したり?

母 そうでもなかったです。ごちそうさまを言う代わりにお皿を被っちゃうみたいな感じだったから……未だによくわかりません。秀人は、別に笑わせようと思ってるんじゃないけど、なんでもふざけちゃうというか、そういう変なことをしてある意味では(空気を)ごまかしちゃうというのか……。緊張が嫌だったのかもしれないです。それを壊すために変わったことをやってみるという感じの子でした。

学校でもかけっこ中、急に立ち止まって靴を脱いで裸足で走り出したり……何をするのか全然予想できなくておもしろかったです。先生には「お母さんがおもしろがり過ぎてる」って注意されました。「こういうときにお母さんが笑っちゃダメです」「だからやめないんですよ」って。でも、秀人の予想外の行動を見て「なるほどね」とか思って笑っちゃったりするから(笑)。

──行動を予想できない秀人さんに、お父さんはどういった反応をされていたのですか?

母 ゴツン!ってすぐやりますね。夫は仕事が忙しかったので、家で家族と夕飯を食べられることがそんなに多くはなかったです。でもたまにいて、ほかの子は「今日はお父さんがいる」っていうのをちゃんとわかって粛々と行動してるけど、秀人はそこの制御が効かないのでいつもどおりにやって、ゴツン!って叱られてました。言うより先に手が出るんですよね。一度、大きくなってから秀人が抗議をしたことがあって。父の手が先に出たんですけど、息子のほうが返すのが速かったんですね。それで夫の顔にあざができて、それからは叩かなくなりましたね。

──それはけっこう大きくなってからの話でしょうか?

母 そうです。秀人は25歳くらいで大学に入ってるので、そのあとくらいだったと思います。顔にあざができちゃったので職場でどうするのかなと思ったら、夫の病院に勤めてた親戚に「『息子にやられちゃってね……』って、すごくうれしそうだったよ」とあとから聞かされました。なんでうれしそうなんだろうって。私としては私じゃないって言ってくれただけよかったんですけど(笑)。

──息子の成長を感じたんですかね?

母 ある意味では一人前になったと思ったのでしょうか、よくわかりませんけど。確かによく「食らいついていけよ」って言ってました。夫は男兄弟の8番目なんですよね。だからお兄さんとかに年中張り飛ばされて育ったらしくて、それに抵抗するのがかっこいいと思ってたんじゃないですか。

子供に向かない学校に通わせたのは間違いだった


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