岩井秀人『いきなり本読み!』が炙り出した“演劇”の本質。生身の観客は必要なのか?

2020.8.20

文=相田冬二 写真=平岩と坂本
編集=森田真規


2020年8月1日、2日の2日間、演劇の聖地・本多劇場で岩井秀人プロデュースによる『いきなり本読み!』というシリーズ企画の第3弾が開催された。

新型コロナウイルスの流行、それに伴う緊急事態宣言の発令、各自治体による「自粛要請」などにより、演劇だけでなくあらゆる文化が“生身の観客”を失った数カ月を経て、万全の対策が取られた上での興行となった。

ライターの相田冬二氏は本公演を観劇して、「これが演劇を体験するということなのではないか」と感じたという。配信サービスが世界中で急ピッチに整備されている今、“生の公演”というものに一人ひとりが改めて向き合うときがきているのかもしれない――。


緊急事態宣言以後、初めて観劇した。

演劇の街、下北沢。中でも聖地と呼んでいい、本多劇場。ここでハイバイの岩井秀人が3人の役者を招いて行う『いきなり本読み!』というシリーズ企画。

タイトルどおり、用意した台本をいきなり演じ手たちに渡し、その場で読み合わせをしてもらう。岩井の想像以上に早く念願が叶い、第3回にして本多劇場公演が実現したらしい。

本多劇場で行われた第3回『いきなり本読み!』2日目より

日本の演劇シーンを代表するホールのひとつ、本多劇場のコロナ対策は完璧だった。

床には「ここでお待ちください」と記された足元ステッカーが貼られており、それに従って並べば、ほどよい間隔が保たれる。特段、ディスタンスを強いられているとも思わない。本多劇場おなじみの階段の風景も、開場前の雰囲気もむしろ、のんびりしているように感じる。

ゆるりとオープン。リラックスしたまま、受付前でアルコール消毒。サーモカメラ通過で検温、ストレスもない。チケットはQRコードだから、非接触。消毒マットで靴裏をきれいにしてから、入場。物々しいムードが漂っていなかったのが何よりだった。

物販を自粛しているから、ロビーは寂しげだったものの、全体的な流れはただ合理的で清潔。このような状況でなくても、これはこれでアリなのではと素直に思った次第。

だが、ホール内に入ってからは驚くしかなかった。シートの両脇席を完全に空けている。「こちらのお席は荷物置き場としてご利用ください。感染症予防対策として荷物は床に置かずこちらのラミネートの上にお願いします。」の文字。さらに座席は、パーテーションで区切られていた。劇場全体の客席は、3割程度しか使用されていない。未曾有の事態を改めて思った。ここまでしなければいけないのか。いや、聖地・本多劇場だからこそ、徹底した姿勢を見せる必要があるのだろう。自問自答し、軽く混乱しながら、着席した。

万全のコロナ対策が取られた会場内の様子。第3回『いきなり本読み!』1日目より

杞憂が安堵に変わった。両脇に誰もいないって、なんてラクなんだ! 人間の気ままさを、我が身が物語っていた。広いし、何より気分がいい。座席につけられた小型のパーテーションも圧迫感がなく、快適。女性なら、バッグも上着も両サイドのシートに置けるから、さぞかし安心だろう。ほとんどファーストクラス並みのゴージャス感。広々してると、こんなに豊かな気持ちになるんだな。

公演中、岩井秀人も何度か、客席を眺めながら「うらやましい」と漏らしていたが、これが当たり前になってしまうと、満員の劇場に息苦しさを感じてしまうかも……とよけいな心配をするほどだった。

ステージの上と客席の“ゆったり加減”の幸福なシンクロ


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相田冬二

(あいだ・とうじ)ライター、ノベライザー、映画批評家。2020年4月30日、Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』をスタート。国内の稀有な演じ手を毎回ひとりずつ取り上げ、縦横無尽に語っている。ジャズ的な即興による言葉のセッションは6時間以上に及ぶことも。2020年10月、著作『舞台上..

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