私の“故郷”はどこにあるのか 『絲山秋子展』から学ぶ、その“土地”に生きるということ

2021.3.11

文=佐々木ののか 編集=碇 雪恵


東京都では、2020年7月以降、転出者数が転入を上回る「転出超過」がつづいている。新型コロナウイルスがきっかけであることは言うまでもないが、しかし実際の一人ひとりのケースには、いろんな背景があるだろう。

東京から北海道に住まいを移した、文筆家の佐々木ののかもそのひとりである。故郷にも東京にも割り切れない感情を抱える佐々木が、『絲山秋子展─“土地”で生きる人々を描く』(群馬県立土屋文明記念文学館/1月16日(土)~3月14日)から、ひとつの土地に根づく生き方について考える。

 “私の土地”はどこにあるのか

実家のある北海道の田舎町にしばらく拠点を移すことにした。

とはいえ、何か計画があって越してきたわけではない。東京にはこれ以上いられないと逃げるように身を移したので、この地に根を下ろす覚悟のようなものはまだない。

でも、ずっとここで暮らしていこうと思えた場所など、今までひとつでもあっただろうか。

物心ついたときから故郷に住みつづけるつもりなど毛頭なかった。土地にも人にもなじめず、友達もおらず、一刻も早くこの地を出るのだと、出自を否定することで生き延びてきた。私は生まれたときから今まで、どこにも根づかぬ宙吊りの異邦人だったのかもしれない。

死ぬまで添い遂げたい土地に出会うことへの憧れがないと言えば、嘘になる。むしろ、そうはなれない劣等感に頑なに背いてきたからこそ、生きてこられたのではなかったか。

ただ、なんの志もないままに、戻って来てしまった。

この地に根づくのか、東京に戻って異邦人でありつづけるのか、ほかの土地の人間に“なる”のか。

“土地”で生きるとは、どういうことなのか。

ずっと目を背けてきた大きなテーマが、全体が把握できぬほど眼前まで迫ってきている。

そんな折、目に留まったのが『絲山秋子展』だった。地方都市で燻ぶっていた思春期に、絲山さんの本を読んで救われたことを思い出す。念のためGoogleカレンダーを開いたが予定はまっさらだ。すぐに飛行機を予約し、思いついた翌々日には群馬は高崎まで飛んでいた。

生きた存在を生み出す、“土地”に根差した緻密な視点


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