「考えるヒット」連載終了を惜しむ。「第一印象から語る」近田春夫スタイルを徹底考察
『週刊文春』の名物連載「考えるヒット」の終了を惜しみながら、サブカルを愛するライター・近藤正高が、筆者・近田春夫の功績を考察する。
首位を獲得するなら、韓国人になる
(……きこえますか…株式会社文藝春秋をはじめ…出版関係者のみなさん…いま…あなた方の心に…直接…呼びかけています……近田春夫の「考えるヒット」の…『週刊文春』に連載された…すべての回を読めるよう…単行本の完全版を出すのです…電話帳みたいに分厚くなってもいいので……後世のためにもぜひ……)
うっかり私の心の声がダダ漏れしてしまったが、ミュージシャンの近田春夫が、その時々のヒット曲について考察してきた『週刊文春』の連載コラム「考えるヒット」が、この新年号(12月31・1月7日合併号)をもって終了した。最終回では近田と川谷絵音(ゲスの極み乙女。)による対談が組まれ、連載された24年の間に日本の音楽シーンがどのように変わったのかを振り返っている。
この対談でとりわけ印象に残ったのは、《長らくあの連載を続けた中でも、それが一番の自慢の種なのよ(笑)》という近田の発言だ。これは、彼が10年ぐらい前に同連載で、坂本九の『SUKIYAKI』(『上を向いて歩こう』の欧米でのタイトル)の次に米ビルボードのシングルチャートでアジア人アーティストが首位を獲得するなら、韓国人になるだろうと書いたことを指す。
この“予言”は、昨年9月、韓国の男性グループ・BTSの『Dynamite』の快挙により見事的中した。BTSは12月にも『Life Goes On』により、韓国語で歌われた曲では史上初となるビルボート1位も獲得している。
予言の書かれた「考えるヒット」がどの回なのか、調べてみたところ、2010年11月11日号掲載の第677回だとわかった。韓国の女性グループ・少女時代の『Gee』を取り上げたその回で、近田は《『sukiyaki』以来極東から国際的ヒットは出ていない。今度そういうことがあったなら間違いなく韓国産だろう》と確かに書いていた。
驚いたことに、近田は少女時代のその曲を、量販店の家電売場で流れていたミュージッククリップでたまたま耳にしたという。喧騒に包まれた店内では、全体を聴き取るのは難しかったが、バックで使われている電子音が効果的に聴こえてきた途端、それを引き金に彼の頭の中で事件が起こる。《「あッ、今、日本の商業音楽が韓国に抜かれようとしている!」まさにその瞬間に立ち会ったような気がしてしまった》というのだ。彼に言わせると、キック(バスドラム)とベースによる低音のバランスが、欧米のサウンドとしか思えないほどかっこよかったらしい。
外でたまたま耳にした曲、それも必ずしもはっきりとは聴こえなかったにもかかわらず(いや、だからこそか)、そこに時代の変化を感じ取ってしまう。そんな近田の勘のよさ、慧眼に感服する。
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