野田洋次郎「お化け遺伝子」ツイートから考える「優生思想」の現在。才能を育てるシンプルな方法

2020.8.8
近藤正高クイックジャーナル

文=近藤正高 編集=アライユキコ 


2020年7月16日。RADWIMPS野田洋次郎のツイートをめぐってSNSが紛糾し、「優生思想」の現在をあぶり出すこととなる。乙武洋匡の反論に首肯しながらも「芸能界やスポーツ界で2世や3世がもてはやされるのは今に始まったことではない」と野田ツイートへの一定の理解をベースに、ノンフィクションライター近藤正高が考える。優生学、芸能、遺伝子、人種、そして教育の地平。


野田洋次郎と乙武洋匡のツイート

《前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。/お父さんはそう思ってる。/#個人の見解です》(2020年7月16日)

ロックバンド・RADWIMPSのフロントマンを務める野田洋次郎が、ツイッターにこのような投稿をしたのが7月16日。この日、ツイート中に出てくる藤井聡太が第91期棋聖戦を制し、史上最年少の17歳で初タイトルを獲得した。先の投稿は、これを祝福する一連のツイートの中で出たものだが(ちなみに野田は一昨年、実在の棋士の半生を描いた映画『泣き虫しょったんの奇跡』で、松田龍平演じる主人公の親友を演じている)、しばらく経って物議を醸すことになる。たとえば、作家の乙武洋匡は7月25日、ツイッターに《「これぞ優生思想」という考え方をここまで無邪気に開陳できてしまうのは無知ゆえだと思う一方、私だって無知ゆえにトンデモ発言をしてしまっていることはあるかもしれない。そう思うとゾッとする。》と自戒を込めながら批判した。

優生思想(優生学)とは、《遺伝学の知識を応用して、ヒトの形質の悪化を防ぎ、改善を図ることを目的とした学問》で、19世紀にゴルトンというイギリスの遺伝学者によって提唱された(『旺文社 生物事典』)。その種類は、望ましい遺伝因子を持つ人間同士を結婚させるなどといった「積極的優生学」と、望ましくない遺伝因子を結婚制限、断種、隔離などによって排除する「消極的優生学」と、おおまかにふたつに分けられる。野田洋次郎のツイートは前者に当たるだろう。

『旺文社 生物事典』八杉貞雄、可知直毅 監修 /旺文社
『旺文社 生物事典』八杉貞雄、可知直毅 監修 /旺文社

これに対し、後者の消極的優生学の例としては、ナチス政権下のドイツで行われたユダヤ人虐殺や障害者などに対する断種の強制がよく知られる。ドイツ以前に優生学がいち早く隆盛したのがアメリカで、20世紀初頭より各州で優生学にもとづく断種が合法化され、1930年代には過半数の州に及んだ。1924年に成立した絶対移民制限法も、「劣った人種の移民増大でアメリカ社会の血全体が劣悪化するのを防ぐ」とする法律だった。日本でも戦後、1948年に成立した優生保護法により、遺伝性の病気のほか、精神病や精神薄弱、ハンセン病の患者も中絶や不妊手術の対象と定められた。このうちハンセン病は、遺伝病ではない感染症(しかも感染力は極めて弱い)にもかかわらず、戦前より隔離政策がとられ、断種手術が行われてきた。それは1996年の優生保護法の廃止までつづくことになる。

乙武洋匡は、前出のツイートのあと、YouTubeでも「優生思想はなぜダメなのか?」と題して、優生思想について先述のような歴史的背景を踏まえて解説し、たとえ積極的優生学であれ、人の命に序列をつけていいのかと疑問を投げかけた。乙武は先天的に身体にハンディキャップを持つだけに、こうした問題に敏感で、警鐘を鳴らさずにはいられなかったのだろう。しかし、大多数の人は、野田のツイートの問題性にすぐ気づかなかったのではないか。実際、くだんのツイートに批判の声が上がったのは、野田が投稿して1週間も経ってからだった。そこには、7月23日になって、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する嘱託殺人の容疑で医師らが逮捕されたことが大きく影響しているのは間違いない。そこへさらに、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から4年を迎えるタイミング(7月26日)も重なった。逆にいえば、これらの件がなければ、野田のツイートがあれほどまでに注目されることもなかったはずである。

『乙武洋匡の情熱教室』【緊急】優生思想はなぜダメなのか?

歌舞伎界への幻想、香川照之の場合

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近藤正高

(こんどう・まさたか)1976年、愛知県生まれ。ライター。高校卒業後の1995年から2年間、創刊間もない『QJ』で編集アシスタントを務める。1997年よりフリー。現在は雑誌のほか『cakes』『エキレビ!』『文春オンライン』などWEB媒体で多数執筆している。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけ..

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