一発で獲物をしとめる凄腕のハンター
昔、私がブログでやりとりをした人(たしか大衆音楽を研究している大学の先生)が、近田春夫について「印象批評であれ以上のものを書ける人はいない」といった意味のことを言っていたのを思い出す。通常、印象批評という場合、対象を印象だけで捉えて本質的に見ていないとか、あまりいい意味では使われない気がする。それだけに、その人が近田春夫を評価するのにこの言葉を使っていたのが、ちょっと意外だった。
だが、どれだけデータを尽くして分析していようとも、本質に届いていない批評やレビューはいくらでもある。それらと比べれば、近田が楽曲の第一印象から語ることは、遥かに精度が高い。まるで一発で獲物をしとめる凄腕のハンターのようだ。
なお、「考えるヒット」は、連載スタート時から2002年までの回が6巻の単行本にまとめられているほか(このうち4巻までは文庫化もされている)、2011年から13年までを収めた電子書籍3巻(以上、文庫版も含めて文藝春秋刊)と、『考えるヒット テーマはジャニーズ』と題して、ジャニーズアイドルの楽曲を取り上げた回をセレクトした単行本(スモール出版、2019年)も刊行されている。
これらを読むと、印象をもとに論をたたみかけるように展開して、結論をずばりひと言で言い切ってしまう近田のスタイルにすっかりやられてしまう。
たとえば、福山雅治の「fighting pose」(2011年)を取り上げた回(『考えるヒットe-1 J-POPもガラパゴス』文春e-Books所収)では、イントロに薄っすらと初期デヴィッド・ボウイの匂いを嗅ぎ取ったところから、ボウイの作品以上にそのビジュアルと発声法が日本のヤンキーたちの魂に火をつけ、いわゆるビジュアル系を生んだことに言及する。その上で福山と楽曲について《歌い出しの低いところからすくい上げるクセなどまさに伝統だし、なんとも中性的に整った(化粧などなくとも美しい)顔立ちも、流れから見て理想といっていい》と、こんなふうに断言してみせた。
そう考えると(ビジュアル系の)すべてが淘汰統合された、ここが到達点だからこそ、福山雅治はセールス的に強いのだ。ひょっとしてこのひとは“ビジュアル系”を最高に無駄のない形で概念化してみせたアーティストなのかもしれない。
『考えるヒットe-1 J-POPもガラパゴス』文春e-Books
福山雅治というアーティストを技術面からルックスまで総合的に分析しながら、ある系譜(それも意外なところ)に位置づけ、そのヒットの理由まで解いてみせる。それを一気に読ませて納得させてしまうところに、一種の名人芸すら感じる。
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