グローバルボーイズグループ・INIのメンバーであるシュウ・フェンファンが、いつかは忘れてしまうかもしれない「ある一日」の心の動きを大切に書き留めるエッセイ連載。
連載第8回は、日本に来てからしばらく空白が続いていた家族との時間について。
※本稿はWEB版オリジナル原稿です。第9回は8月25日(火)発売の『Quick Japan』vol.185に掲載します。
20231129:空白だった時間

2023年に入り、INIの活動にもさまざまな転機が訪れた。初めてのツアー『2022 INI 1ST ARENA LIVE TOUR [BREAK THE CODE]』を無事に終え、を無事に終え、数カ月の準備期間を経て、5月から4TH SINGLE『DROP That』新タイトル曲の「FANFARE」の活動が始まった。
今ではフェスやイベントに出演するときの定番曲となり、デビュー曲以降の「第二の代表曲」となった「FANFARE」だが、当時の僕たちにとっては新たな出発点となる楽曲でもあった。
『KCON』への出演をきっかけに初めて全員でタイへ行き、夏には2年目となる『KCON LA』にも出演した。秋にはその年2枚目のシングルを準備しながら、2度目となるアリーナツアー『2023 INI 2ND ARENA LIVE TOUR [READY TO POP!]』の開催も決まった。
前年に引き続き、2023年も僕たちにとって変化と挑戦を続ける年になった。毎日朝から晩までいろんなスケジュールをこなしながらも、充実した気持ちでいっぱいだった。時間の流れも相変わらず尋常ではなかったが、2年目、3年目を迎えた僕たちは少しずつその速さにも慣れてきていた。
そう、慣れていたつもりだった。
*
たしか、6月末。家族から届いた一通の連絡が、それまでなんとなくがんばれていた自分と、なんとなく順調だったその年の流れをガラッと変えた。入院していた母方の祖父の体調が急変した。
2020年12月末にオーディションを受けることを決意し、日本に戻ってきてから、練習生になったこと、数カ月間の合宿を経験したこと、デビューが決まったこと、その後の活動、初めてのステージ、初めてのツアーなどなど、気づけば約2年半の間にこれだけの出来事を経験していた。
しかし、それまでの人生で一番濃い2年半にもかかわらず、「家族」という存在は僕の生活と関わることがほとんどなかった。当時のご時世やスケジュールのこともあってなかなか帰国できず、当然、家族と会うこともなかった。それまで同時に進んでいた2本のタイムラインが、気づけば僕だけの1本になっていた。
しかし正直、これらのことは想定内だった。日本に戻ってきたその日から、この先、家族との空白が長くなることへの心の準備はできていた。それにしても、その空白がこのようなかたちで終わるとは思いもしなかった。ちょうどシングルの活動が落ち着いたころ、奇跡的に数日間スケジュールが空いていた。連絡をもらった次の日、前日の夜に急いでチケットを取った飛行機に乗って、久しぶりに母国の地を踏んだ。
活動している中で、デビューして初めての帰国はいつ、どんな心境で、どんな状況下での帰国になるだろうとたまに想像していた。コロナ禍がようやく明け、国同士を自由に行き来できるようになったときなのか。シングル活動、もしくは次のツアーをがんばったメンバーたちへのごほうび休暇なのか。そもそも、メンバー全員で行くことになるのか。
どうして自分は物事がいい方向に進むパターンしか想定していなかったんだろう。
*
6月の帰国以来、家族と再会したのはそれから半年後の11月だった。
日本に戻ってきてからも、なぜかその年はうまくいかないことがずっと続いていた。不運に見舞われていたのか、もはや僕自身があんな状態だったから引き寄せていたのか、今でも僕はその答えを知るすべがない。それでも表に出て活動している以上、自分から強制的にでもポジティブな気持ちにならないと、パフォーマンスにもきっと影響が出てしまうし、見てくれた人にもそれが伝わってしまう。少しずつ自分を調整しながら、生活は続いていた。僕のタイムラインは、元どおり順調そうに動いていた。
11月、ついにさまざまな条件をクリアし、デビューして初めて僕の家族が来日した。両親は大学時代に何度か来日したことがあったが、今回は初めて父方の祖父母も一緒に来てくれた。
半年前に会ったばかりとはいえ、最近ではメンバーやマネージャーさんとしか行かない羽田空港で見慣れた顔が見えた瞬間、すべてが非現実のように感じた。
そんな祖父母が僕の日本の家にいることも、一緒に日本食を食べることも、富士山で撮った家族写真が送られてきたことも、全部夢のようだった。
そして11月29日、『READY TO POP!』の神奈川公演の初日。きっとこの先、一生忘れることのない日になるのだと思う。INIになってから3年の歳月が過ぎ、ついに初めて、僕たちのパフォーマンスを家族に見せることができた。
ここ数年間、家族のことや、両方の祖父母の体調のことなど、メールではなんとなくつながっていて、時々話は聞いているものの、実際に家族がどんな大変な経験をしていたのか、どんな思いで過ごしていたのかを、僕が知ることは到底できなかった。家族にとってのその時間、僕がいた場所は長い間空白となっていた。
逆に僕も、練習生からアイドルになって活動していることなど、この3年間で僕が経験したすべての喜びも悲しみも、残念ながらほとんどが家族にとって空白だったのではないかと思う。
そんな、お互いにとって空白だった時間が、ついにその日から、少しずつ埋まり始めた気がした。
今振り返ってみると、2023年の出来事は、間違いなくこの5年間における僕の低迷期だった。それでも、当時それを乗り越えた自分には、今でも感謝している。今では家族は毎回のツアーやライブに当たり前のように来てくれるようになっている。初めてライブを見せたときに少々残っていた恥ずかしさも、今ではとっくに感じなくなった。
あの日から、お互いのタイムラインが再び並んで進むようになった。一度空白が生まれた時間は、きっとこの先もすべて埋まることはない。しかしその空白をお互いが忘れるくらい、僕たちのタイムラインが進んでいくことを、僕はずっと願っていたい。
第9回は8月25日(火)発売の『Quick Japan』vol.185に掲載します。
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