グローバルボーイズグループ・INIのメンバー・許豊凡が、いつかは忘れてしまうかもしれない「ある一日」の心の動きを大切に書き留めるエッセイ連載。
連載第6回は、INIの楽曲「Runaway」にまつわる思い出と、悔し涙を流したあの日のこと。
※本稿はWEB版オリジナル原稿です。第7回は6月24日(水)発売の『Quick Japan』vol.184に掲載します。
20221019:涙の果てには

暗闇の中、ふと頬に涙が流れて、そしてそのまま暗闇に落ちていった。気づいてほしいのか、気づいてほしくないのか、僕もわからない。
なぜだろう。その日の涙のことを、いまだにこれほどはっきり覚えているのは。
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8月に初めての渡米やロックフェスへの出演を終え、盛夏の猛暑も落ち着いた2022年の秋。僕たちは1ST ALBUM『Awakening』の準備を毎日着々と進めていた。
昨年6月に結成、11月にデビューした僕たちにとっては、まさにデビュー後、初めての周年をこれから迎えようとしていたフェーズで、そのアルバムにもデビューから1年間の集大成という意味合いが込められていた。
10月19日。この日はアルバムの収録曲「Dramatic」の振り付けの練習だった。「Dramatic」という曲はそれまでの僕たちの曲の中でもかなり難易度の高い振り付けで、HIP-HOP要素が強く体の使い方も難しかった。何日も何日も僕はその振り付けに苦戦していた。言われたことが覚えられない、覚えていても体がついていかない。とにかく出来が悪い。その次の日にイベントが控えていて時間もないなか、結局モヤモヤした気持ちのままその日の練習を終えることになった。
そしてたしか同じ日に、すでにレコーディングを終えたアルバムの曲の音源が届いて、その中に「Runaway」という曲が入っていた。メンタルも体もボロボロのままで車に座り込み、帰路につく途中、なんとなく外の夜景を眺めていたら、ふとこの曲のことを思い出して、イヤホンをつけた。
「叫びたいけれど どこに行っても結局 叫べなかった 日々は もう」
「暗闇の中を 突き進んでいこうか 果てなき旅路を 同じ波に乗って」
「疲れてきたら 休んだっていいさ」
僕も逃げたい。
逃避は何も解決しない。わかる。でも逃げたい。
どこでもいいから、逃げたい。今の自分のままじゃ情けない。
それまでなんとなく目をつむったふりをして考えないようにしていたことが、一瞬にして胃の奥から込み上げてきて、喉までせり上がるような勢いで僕自身を壊しに来ていた。僕は何もできず、ただひたすら窓に映る、涙に溺れてぼやけていく自分の顔を眺めていた。
*
この日の出来事からもう4年弱の歳月が経ち、あっという間にもうすぐデビュー5周年を迎えようとしている。今はこうして笑いながら振り返っているが、それにしても今の自分からすると、もはや考えられないほど感情の波に飲み込まれそうになっていた時期があった。
それまでの僕はずっと、自分のことをメンタルが強い人間だと思っていた。
環境の変化にもなんとなくついていけるほうだと思っていたし、それまでの人生でもいくつかの難関を乗り越えて、かつて夢を見ていた場所にやっとたどり着き、今こうして走り続けている。未知なる世界ではあるが、毎日新しいことを経験をしていて、そのすべてがこれからのためになる。だから慣れないことがあっても恐れず、ただがむしゃらに毎日を過ごしていけばいいと思っていた。
何も間違ってはいない。今でもそう思っている。でもそのときの自分は、そうしているうちに、自分でも気づいていないところで、すごく力むようになっていた。充実した日々を過ごしていた裏で、当時の自分のキャパの限界を知らないまま、さまざまな局面を迎えていた。
ゆっくり文章を考えながら書くことは当時から好きだったが、口ではすぐに言葉が出てこないことがよくある。そうすると、ほかに自分が知っている言葉を探して代用することになるが、その結果、独特な言い回しになったりする。もどかしさはもちろんあるが、それでも僕は遅れを取りたくない。少しでも遅れを取ることが嫌だった。それでもできなかったら、言葉が達者じゃないぶん、僕は体を使って大きくリアクションをすることはできる。大丈夫。
練習だってそうだ。限られた時間の中、覚えなければいけない振り付けが多くても、自分次第できっとなんとかなる。家族からのメッセージをまた放置してしまっているが、きっとお互いがとっくに慣れているだろう。今の僕は一刻も止めていられない。止まっている暇なんてない。今の僕は一刻も止めていられない。止まっている暇なんてない。
自分を騙しながら、すべての問題と向き合わないようにしていたが、それが僕の中にどんどん溜まっていってふくらんでいた。その日の練習のモヤモヤはひとつの起爆剤に過ぎない。僕はそれまでの自分の問題と向き合わず、自分の思い込みで毎日を過ごしていた結果、蓄積されたものによって感情のダムが決壊してしまった。
*
あの日はどうやって車を降りたのか、どうやって家に帰れたのか覚えていないし、ほかのメンバーに自分の涙がバレたかどうかもわからない。覚えているのは、次の日、僕はいつもどおりの朝を迎えて、新しい一日を始めたということだけだ。
あれからいろんなライブで「Runaway」を歌うたびに、あの日のことがどうしてもよみがえってくる。でもいつの間に、たとえつらい記憶が脳裏に思い浮かんでも、僕は微笑んでこの曲を歌えるようになった。
人の変化には、必ずきっかけというものが存在するのだろうか。僕はそうは思わない。劇的な変化ももちろんあるが、多くの場合、僕たちの成長は少しずつ慣れていく過程だ。その日から、僕の中から感情の波というものはけっして消えてはいない。ただ、時の流れの中で、少しずつそれを受け入れるようになった。それも僕の一部だから。客観的に見れば、あのとき自分にとって問題となっていたことは今でも存在する。でもあの日の涙は、あのときの自分と一緒に、永遠に過去に置かれている。
解決という解決がない状況は、誰もが置かれることがある。いったん逃げてもいい。疲れたら休んでもいい。涙だって流していい。でも、あきらめだけは絶対にしない。
涙の果てには、きっと強くなった自分がいる。
第7回は6月24日(水)発売の『Quick Japan』vol.184に掲載します。





