BLM、大坂なおみ、トランプと安倍晋三…粉川哲夫×TVOD“2020年”を考える(7~12月)
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界が様変わりしてしまった2020年。それによってカルチャーも社会も、もちろん個々人の生活も、大きな変化が求められるようになりました。
激動の一年が終わりを迎えようとしているなか、QJWebの時事連載「クイックジャーナル」で執筆中のメディア批評家の粉川哲夫さんと、テキストユニット「TVOD」のパンスさんとコメカさんの3人に、2020年を振り返る鼎談をしてもらいました。
※粉川さんはTVODのふたりに倣って、本稿では「プシク」と名乗っています。
今回は、「ブラック・ライヴズ・マター」運動やトランプ大統領と安倍首相の退任、そして新型コロナウイルスの影響によって変わりゆく世界についてなど、7月から12月を振り返っていただきました。“2020年”という特別な一年を考える参考にしてみてください。
「ブラック・ライヴズ・マター」運動と宇多田ヒカル
コメカ TVODコメカです。前回は1~6月の話題についてお話ししましたが、今回は7~12月を振り返ってみたいと思います。まずは前回最後に出た話題、「ブラック・ライヴズ・マター」運動についてお話しすることからスタートできればと。
「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが初めて拡散されたのは2013年、その前年にフロリダで起きたトレイボン・マーティン射殺事件に抗議してのことでした。それ以降も警察によるアフリカン・アメリカンへの暴力行為・殺人行為に対してBLMのハッシュタグ・ムーブメントやデモは繰り返されていましたが、5月25日、ミネアポリスで白人警察官がジョージ・フロイドを暴行死させた動画がソーシャルメディアで拡散されると、これまでに増して抗議運動が世界中に大きく拡大しました。
付随する出来事としてひとつ個人的に印象深かったのは、ミュージシャンの宇多田ヒカルが「日本で生まれ育った日本人からすると人種差別っていまいちピンと来ないかもしれないけど、今アメリカで起きていることは未来の世界史に載るような歴史的な局面かもしれない…というかそうであってほしい」とツイッターで発信したことでした。
コメカ 日本社会にはまぎれもなく人種差別が存在しますが、「日本で生まれ育った日本人からすると人種差別っていまいちピンと来ない」というクリシェはしかし、多くの「日本人」にとってリアリティのある実感なのではないかと感じています。そのようないわば「鈍感さ」は、ミクロな行為が大きなうねりを生んでいくダイナミズムが日本社会では発生しにくいことにも関連している気がしています。
パンス 日本人の多くは差別に関心がない、とはたびたび感じます。それは日本人が鈍感だからという見方もできるのかもしれませんが、そもそも差別が社会構造に内在しているという認識が薄いからかもしれません。差別された人が「かわいそう」であるという点はたいていの人が同意すると思うのですが、それが「かわいそう」ではなかったら? 「○○は悪いことをしているから非難しているのであって、これは差別ではない」と言いながら差別をするという振る舞いをよく見ますが、その思考自体が間違っているんですね。
ドキュメンタリー『13th -憲法修正第13条-』は、アメリカの社会構造の中にアフリカ系アメリカ人に対する差別が内在している状況を分析していました。正直知らないことだらけで、これをきっかけに今年はアメリカ史についていろいろと調べました。BLMもついても、さまざまな歴史的文脈が折り重なったものとして捉える必要がある、と考えています。
プシク 宇多田さんの原文を見てないのですが、「日本で生まれ育った日本人」という言い方が引っかかります。だって問題は「生まれ育った」《以後》でしょう。アメリカの都市では、生まれや育ちがアメリカ外である者が多数です。差別が、「敵」だらけの環境を生き抜くための武装や結束のためになったりもします。しかし、そんなことをつづけてると全滅だよという点を突いたところがBLMのリアリティです。
日本には、ここで生まれ育つとそのシバリから逃れられない、いや、逃さないといった慣習があります。それは、戸籍法と、男系という天皇を象徴にしている極めて差別的な国家制度で物理的に裏打ちされている。ここから、男性と女性の言葉が明確に区別されたり、「外人」とか「日本人ばなれした」という表現が普通になっていくのでしょう。ここでは、BLMもLGBTもMeTooも、みんな輸入品として入ってきていっとき賑わいを生みますが、しばらくすると忘れ去られ、元に戻ってしまう。それは、日本語自体が一見柔軟なようで「異物」を受け入れない「排外的」な構造になっていることからくるのかもしれません。
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