ポストコロナ映画批評――映画『ファナティック』に見る“ハリウッドという牢獄”(粉川哲夫)

2020.8.9


映画と社会とか、映画と政治といった視点は重視しない

 ゴールデンラズベリー賞で作品・監督・主演が共に「ワースト」にノミネートされ、トラボルタが「ワースト」賞を受賞したとか。

 それは、オマージュで、からめ手からの賞賛なんだけど、トランプやコロナの恨みつらみをぶつけているような印象を受けるな。まあ、この作品が公開された昨年の8月以降、アメリカではいいことは何もないからね。コロナの死者数が人口数に比して世界でダントツなのに、トランプは「アメリカのコロナ対策は世界一」とうそぶき、政治から歴史、自分自身の事実に至る限りない嘘を吐きつづけ、資産公開の義務は果たさず、支持率が下がって11月の再選に影が射すと、コロナを理由に選挙日の延期を画策する。心あるアメリカ人にトランプの話は禁句。とたんに不機嫌になるんでね。

 その話はいずれ別枠で聞くとして(苦笑)、『ファナティック』だけど……。

 失礼、で、トラボルタが演じるムースという男は、ある意味で、「善良なアメリカ人」の成れの果てみたいな感じでもあるのね。自閉症であるかどうかは別として、もう社会は嫌、自分だけの世界にこもりたい、ある意味でのソーシャル・ディスタンシングだね。それがムースにとってはハリウッド映画であり、デヴォン・サワが演じるハリウッドスターだというわけなんだが、それがもうそういう対象ではない。

 それは、大統領に裏切られたトランプ時代のアメリカ人だと。

ムースはダンバーの家を突き止めファンレターを渡そうとするも……

 いや、君の誘導にかかってそっちに来てしまったけど、ポストコロナ映画批評は、もう、映画と社会とか、映画と政治といった視点は重視しないのよ。それは、カルスタの残党がやればいいことで、これからの映画評がやることじゃない。

 というと……作品に即して言ってくれませんか?

 だからね、トラボルタがスクーターに乗って出てくるでしょう。そしてそのあと、オープニングの終わりにいきなり静止画が出てくる。それは、トラボルタがスクーターに乗っている絵なんだけど、そのタッチが明らかにロバート・クラムのコミック画なんだ。シニカルなブラックユーモアを湛えた感じね。こういうディテールに注目して……。

 ロバート・クラムって、『フリッツ・ザ・キャット』のクラムですよね。アンダーグラウンド・コミックスの創始者。1994年に公開されたテリー・ツワイゴフによるドキュメンタリー『クラム』では、最後にアメリカを見捨ててフランスに移住するところで終わってましたが、この映画に協力してるんですか?

 いや、それはわからない。エンドロールには彼の名はない。でも、ひょっとすると、監督のフレッド・ダーストはヨーロッパあたりでクラムに会っているかもしれない。

Crumb - Trailer

ハリウッドの歩道に刻まれた有名スターの名前からわかること


この記事の画像(全11枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

粉川哲夫_プロフィールph

Written by

粉川哲夫

(こがわ・てつお)メディア批評家、ラジオアートパフォーマー。著書に『メディアの臨界』『アキバと手の思考』(共にせりか書房)、『RADIO-ART』(UV Éditions, Paris)など。https://anarchy.translocal.jp/