甲子園のない異常な2020夏。今こそ読みたい高校野球本、コロナに負けるなベスト

2020.7.13

地方大会で敗れる球児たちこそがリアル

ここからは、旧作も含めピックアップしていきたい。

今年6月に発売された『甲子園だけが高校野球ではない 生きてさえいてくれれば』(廣済堂出版)は累計36万部の人気シリーズの最新作。これまでは『もしドラ』の岩崎夏海が監修を務め、3作を刊行。今回、高校野球大好き芸人・渡部建を新たな監修役に迎えてリニューアルを図ったのだが、本作とはまったく関係のない不祥事によってミソをつけられた格好となった。

Amazonレビューでも内容ではなく、監修役への否定的コメントが出ているが、それはあまりにも短絡的。上述した『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない!』が“野球強豪校の今”を描いた作品なら、こちらは、甲子園とは縁遠い、いわゆる“普通の高校野球部”で実際に起きた奇跡的なエピソードが収録されている。強豪校だけを追っても高校野球のリアルは見えてこない。野球人口という意味では、むしろ地方大会で敗れる球児たちこそがリアルなのだ。その両方を知るという意味でも、監修役というお飾りに惑わされずに読んでほしい一冊だ。

『甲子園だけが高校野球ではない』井上幸太、長壁明、尾関雄一朗、瀬川ふみ子、高木遊、高橋昌江、馬場遼/廣済堂出版
『甲子園だけが高校野球ではない』井上幸太、長壁明、尾関雄一朗、瀬川ふみ子、高木遊、高橋昌江、馬場遼/廣済堂出版

2年前に上梓された『甲子園という病』(氏原英明/新潮新書)は、高校野球にまつわるさまざまな問題点を取り上げた一冊。本来、2020年の高校野球は投手への「球数制限」が導入される“改革元年”として位置づけられる年だった。コロナでいったん、その話は吹き飛んでしまったが、平時に戻ったときに改めて高校野球の問題点を整理する上でも考えさせられる一冊。特に、冒頭で紹介される「肘が壊れたまま甲子園のマウンドに立ったエース千葉くん」のエピソードは衝撃的だ。

『甲子園という病』氏原英明/新潮社
『甲子園という病』氏原英明/新潮社

来月、甲子園大会史には刻まれないセンバツ大会の代替措置「甲子園交流試合」が実施されるわけだが、実は甲子園を舞台にした大会史にはカウントされない“幻の大会”が過去に一度だけ実施されたことがある。『昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち』(早坂隆/文春文庫)がまさにそれだ。

『昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち』早坂隆/文藝春秋
『昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち』早坂隆/文藝春秋

今回、コロナ禍によって試合を奪われた球児たちに対して、昭和17(1942)年の球児たちを襲ったのは戦禍による大会中止。そんななか、朝日新聞社ではなく文部省などが主催して実施されたのが「全国中学体育大会野球大会」。いわゆる「幻の甲子園」だ。戦意高揚のための大会という目的に沿うため、球児たちは「選手」ではなく「選士」と呼ばれ、ユニフォームにはローマ字禁止。ケガをしても「戦場で代役はいない」と交代が禁止されるなど、まさに非常時の大会に。それでも、球児たちは「甲子園で試合ができる」ことに希望を見出し、白球を追いかけたのだ。

高校野球は100年以上の歴史を誇るからこそ、過去から学ぶべきこと、気づかされることは本当に多い。そんな歴史について知りたい場合は、拙著『高校野球100年100ネタ』(廣済堂出版)、構成を務めた『高校野球100年を読む』(小野祥之/ポプラ新書)もよろしければ。


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