つるの剛士「普通の声で」がトーンポリシングでも、わたしは人を語り口や態度で判断する

2020.6.14

文=荻原魚雷 編集=森山裕之


文筆家・荻原魚雷が、高円寺の街から、酒場から、部屋から、世界を読む「半隠居遅報」。

タレントのつるの剛士が5月30日、ネット上の声高な発言に対し言及したツイートに同調し、「普通の声で、ほんまこれ。」と投稿すると、これこそが「トーンポリシング」だと一斉に批判された。

トーンポリシングという言葉に初めて触れた筆者が思い浮かべたのは、吉行淳之介の昭和40年代の本の中の言葉だった。 人が「やむにやまれず」上げた声、その語り口、態度について考える。

吉行淳之介の言葉はトーンポリシングか

不勉強のせいか、つい最近までトーンポリシングという言葉を知らなかった。

2020年5月30日、つるの剛士さんが「普通の声で、ほんまこれ。」とツイッターに投稿したところ、彼のメッセージはトーンポリシングだと批判された。

つるのさんの投稿は「声高に平和を訴える人ほど攻撃的 声高に差別反対を訴える人ほど差別的 声高に誹謗中傷を責める人ほど言葉が汚い 普通の声で言おうよ、正しいことなら」という別の投稿に対するリアクションだった。

トーンポリシングのトーン(tone)は口調、ポリシング(policing)は取り締まること。語られる内容ではなく、口調や態度に言及することで、その主張を封じ込める行為を意味する。いわゆる「論点ずらし」だ。

当初、つるのさんの意見にそれほど違和感がなかった。

わたしは声や態度の大きい人を見ると距離を取ってしまいがちである。

つるのさんと違って、わたしは「普通の声でしゃべってほしい」「冷静に語ってほしい」と思うだけで言葉にしない。頭に血がのぼっている人に下手なことを言うと、よけいに激昂させてしまう可能性が高いと考えているからだ。

わたしはつるのさんの「普通の声で」発言をめぐる議論から吉行淳之介の「戦中少数派の発言」(『軽薄派の発想』)が思い浮かんだ。

吉行淳之介『軽薄派の発想』( 芳賀書店 )1966年

村上兵衛が「戦中派はこう考える」という論文の中で「いたずらに甲高く叫ぶような人種を自分たちは信じない。学生運動が華やかだったころ革命前夜を呼号した学生指導者たちの目の中に、かつて自分にピストルをつきつけた敗戦前後の蹶起(けっき)将校と同じ目の色を見た」と書いた。わたしはこの生原稿を持っている。数年前、戦後史の重要資料だと考え、古本屋で購入したのだ。

村上兵衛「戦中派はこう考える」生原稿(筆者所有)

吉行淳之介は士官学校出身の村上に対し、「戦争中もっとも甲高く叫んだ人種の中には、士官学校の生徒は含まれていなかったか」と問いかける。

当時、彼らはいわゆる大義名分によりかかって、あまりに私たちに向って罵り叫びすぎたのである。

吉行淳之介『軽薄派の発想』「戦中少数派の発言」

『軽薄派の発想』所収の「戦争を背負った主人公たち」でも、吉行淳之介は甲高く叫ぶ人種を批判している。

一オクターブ高い大げさな身振りがニセモノであることを、戦争中さんざん見せつけられてきた。

吉行淳之介『軽薄派の発想』「戦争を背負った主人公たち」

「一オクターブ高い」という言葉も相手の批判を封じ込めるトーンポリシングだろう。

トーンポリシングが論点ずらしだと説明されても、わたしは人を語り口や態度で判断する。だから「普通の声で」というつるのさんの声も封じ込めたくない。

もちろん、つるのさんの「普通の声で」というツイートを批判した人の言い分は否定するつもりはない。

長きにわたって抑圧され、差別され、苦しんできた人がやむにやまれず怒りの声を上げる。「普通の声」で語って聞いてもらえなかったら怒声になった。その声を封じる発言は抑圧者に加担する行為だ。

つるのさんのツイートへの批判をまとめるとそういう意見になる(違っていたら、すみません)。

しかし怒っているのはわかるけど、何に怒っているのかわからないこともあるわけで、そういうときはもう少し声のトーンを下げて喧嘩腰ではない態度で説明してくれるとありがたい。

それにまっとうな怒りなのか、ただ不機嫌なだけなのか。どう判断すればいいのか。

こうした要求もトーンポリシングに含まれてしまうのだろうか。もし含まれているのであれば、以後、気をつけます。

「臆病な沈黙よりは、愚かな発言のほうがよい」

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