自分が正義で相手が悪と信じる人はどこまでも残忍になれる(荻原魚雷)

2020.5.7

文=荻原魚雷 編集=森山裕之


デビュー作『古本暮らし』以来、古本や身のまわりの生活について等身大の言葉を綴り、多くの読者を魅了している文筆家・荻原魚雷。高円寺の街から、酒場から、部屋から、世界を読む「半隠居遅報」。

自分の愛する町の小さな個人営業の店を支えたい、応援したいと思っている人はたくさんいる。営業再開の日を待ち望んでいる。いっぽう嫌がらせをする「自粛警察」がいる。今回は「遅報」ではなく「速報」です。

「自粛警察」と書いたマスクをして町を歩いてくれ

3週間ぶりにJR中央線中野駅の中野郵便局の夜間窓口に行ったら19時で閉まっていた。事前に調べてから行けばよかったのだがあとの祭り。

電車に乗らず、高円寺まで歩いて帰る。いつもより歩いている人は少ない。時折、ウーバーイーツの自転車がすれ違った。

JR中央線は新宿方面から中野駅、高円寺駅、阿佐ケ谷駅とつづく。商店街が活発で個人営業の店が多いエリアだ。

中央線沿線の町の個性や賑わいは個人営業の店が作っているといっても過言ではない。

わたしも高円寺にかれこれ30年以上暮らしている。商店街のあちこちに世話になっている店がある。

新型コロナの前まではテレビの町歩き番組のロケがしょっちゅう来ていた。

数日前、近所のそば屋でテイクアウトのかつ丼を買ったあと、天気がよかったので商店街を散策していたら、テレビカメラを持ったスタッフが何人か歩いていた。

なんとなく雰囲気が暗く重々しい。なんだろう。事件か。

この日の取材の内容が判明したのは5月5日の早朝である。朝のニュースで「商店街に“自粛警察”ガラス破損も」とわが町・高円寺が取り上げられていたのだ。

被害を受けた店は、夜、シャッターを下ろし、スタッフと店のこれからについて話し合っていた。それがこっそり営業していると勘違いされたのではないかと店主がインタビューに答えていた。何度となくいたずら電話がかかってきているとも。

あるライブバーは店を完全に休業し、客を入れず、インターネットでライブ配信をしていたところ「ライブをやめろ」「警察に通報する」といった内容の警告文を貼られた。

自分の愛する町の小さな個人営業の店を支えたい、応援したいと思っている人はたくさんいる。営業再開の日を待ち望んでいる。いっぽう嫌がらせをする「自粛警察」がいる。やりきれない。

おそらくその貼り紙その他の嫌がらせをしている人は「正しいことを行っている」と考えている可能性が高い。少なくとも愉快犯のつもりではないだろう(ほんとうの動機はわからないが)。

仮に百歩譲って新型コロナの感染拡大を防ぐための正義に基づく行動だと信じているのであれば、せめて自分の名前と連絡先を明記するのが筋だろう。もしくは「自粛警察」と書いたマスクをして町を歩いてくれ。

今「自粛警察」は全国で問題になっている。四国の某県では他県のナンバーの車を煽ったり、石を投げたりするという事件も起きている。

1980年代の暴走族が他県ナンバー狩りをやっていたが、その記憶が甦った。

他県ナンバーの車に石を投げる人たちは無許可の特高、憲兵みたいなものだ

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