TBS『ラヴィット!』でおなじみの田村真子アナウンサーが日々の悩みや心の動きを徒然なるままに語るエッセイ連載、スタートです! 大好評だった「『ラヴィット!』日誌」からおよそ2年、田村アナが『Quick Japan』に帰ってきました。入社7年目、中堅会社員として大奮闘する田村アナの日常をお届けします!
今回は「学校っぽい」と言われる『ラヴィット!』の舞台裏から、実際の田村アナの学生時代の思い出を回想します。
本連載はQJ&QJwebで毎月連載中!次回はQJWebで12月中旬に配信します。
朝の空気を吸って、昔の記憶が蘇る
季節の変わり目って、匂いが変わるのがわかりませんか?
私は昔から嗅覚が鋭いのですが、この「匂い」というのは秋なら金木犀、というような本当の意味での匂いだけではなく、気温や肌にまとわりつく湿度のようなものを含んだ五感で感じる「匂い」です。
特に朝。「あ、体感が変わったな」と思うときに昔の記憶がふと蘇ります。匂いは記憶と密接につながっているというじゃないですか。
今は朝が早いので6時には会社にいて、ロッカーに荷物を取りに行くために誰もいない廊下をひとりで歩きます。廊下の先に窓があって、その窓がよく開けっ放しになっているので外の様子がわかります。春先はまだ薄暗く肌寒い空気と雨の音。夏になれば日の出が早くなり、鳥の鳴き声とともに爽やかな日差し。秋に差しかかると和らいだ暑さにまだ残っている湿った感触の空気。冬はもう真っ暗でただただ寒く寂しい……。
そしてここを歩きながら外の空気を感じたとき、たまに昔見た景色を思い出します。
新学期に肌寒いなか傘をさして歩いた駅から学校までの道、オープンキャンパスで東京に来た夏、制服の移行期間が終わりセーターを着て意気揚々とみんなが過ごす教室(うちの学校でセーターはイケてるものだったんです)、冬だけは真っ暗な時間はまだ寝ていたので蘇る記憶がありません(笑)。
こうして何気ない日常から思い出のある記憶まで、ふと登場してくる日があるわけです。
それも中学高校の記憶の引き出しから。私が季節を感じるということを覚えたのがこの時期だったのでしょうか? そんなこともないと思うのですが。
もしかして無意識に自分をノスタルジーの箱の中に入れているのか? 現実逃避したい願望がこういうかたちで出ているのか?と不安になってきました。
でもこの瞬間が私はすごく好きで、ほんの1、2分のことなんですが心が深く落ち着きます。自分の体と心の感覚を取り戻す、本来の自分に戻るひとときのような気がします。
でも本来の自分ってなんだろう。毎日仕事をして生きている無意識の自分も本当の自分に違いはないし、ここで私が使った「本来の自分」って10代のころの田村真子ってことですよね。
自分で文章を書きながら、今思いました。私の一番素の状態、原点はやはりこの6年間なんだなと。ただ懐かしんでいるわけではなくて「本来の自分」を取り戻そうとしているだけなのかも! 前回書いた「学生時代の夢を見る」っていうのも、そういうことでしょうか。あのころに戻りたいのではなく、あのころの自分を取り戻したいだけなのでは?
といってももう立派な社会人なわけですから、そりゃ10代のころよりは責任もありますし人の目もあります。あのころのように振る舞うのは無理がありすぎますし、正しいとも思えません。
難しい……そりゃ今の田村真子は「TBSアナウンサー田村真子」ですから、学生時代の出席番号23の田村真子とは違うに決まってますよね。
自分を見失っていた入社試験のころ
そういやTBSに入って研修期間のころ、当時の大先輩に「田村さんは自分を隠している、隠さなくてもいいのよ」と言われたことを思い出しました。私自身はもちろん隠しているつもりはありません。でも新人だし一応ちゃんとはしなくちゃいけないじゃないですか。まじめとか固い印象を持たれることはありましたが、自分を隠しているつもりはないのに……あれはどういうことだったんだろうなー、といまだに思うわけです。
でも思い出してみれば今年の春、SDGsウィーク特番で私の入社試験のカメラテストの映像が使われ、それを私も初めて観たわけですが「めちゃくちゃ猫被ってるやん」というのが私自身の感想でした。わざと猫を被っているというより、なんかもう右も左もわからずビビりまくっているというのが正しい表現でしょうか、今よりも高い声で「はいっ!」とか言っちゃったりして。
入社試験ではまわりの人たちがすごく華やかでみんなアナウンサーに見えたのを覚えています。みんないろんな経験を積んでここに来ているなかで、私は初めてスタジオやカメラを目の前にし右往左往。面接官に呼ばれてからセットに向かって歩き出すはずが、勝手にそのまま歩き出したりしてアワアワ。きっと研修中の私も必死でビビって猫を被っていたんですね。そしてそれを先輩に見抜かれていたんだろうな、と。
でも人は無意識に猫を被ってしまうんですよ。年次が上がり、会社にも慣れて『ラヴィット!』のような番組を担当している今の私は、ずいぶんと自分を出すようになったと思います。でもきっと社会人として生きていくなかで、まだ猫を被っている。
そもそも私は家族から見てもけっしてしっかりした人間ではなかったんです。忘れ物もするし、朝はギリギリまで寝ているし、私が“しっかりしている側”だと思われるようになったのは大学生になってから……。
アナウンサーという職業は場をまとめたり回したり、管理することが求められる職業。出演者と制作陣の間という立場で臨機応変に動けないといけないし、しっかりしていることが求められます。でも実際本来の私はそんなことないんです。『ラヴィット!』視聴者の方は、うすうす気づいているかもしれませんが……。
こうあるべき!と思って仕事のときはなんとかがんばっているだけ。あと顔と声がしっかりしている風なのでたぶん得をしてます。
「田村のローファーが行方不明になりました」
ここで学生時代のおとぼけエピソードをひとつ。
あれは高校の修学旅行で九州に行って、鹿児島のホテルに泊まったときのこと。修学旅行の夜って、ダメとは言われてもみんな部屋を移動したりするんですよね。女子ですし大騒ぎはしませんが、仲のいい子の部屋に行ったり、同部屋の子の友達が来たり、彼氏に会いに行く子がいたり……。
そんな夜、たしか私の部屋は何人かの女子が出入りしていたんです。途中で寝たので詳しくは覚えていないのですが、次の日の朝に朝食会場へ向かうため身支度をしていたら……私のローファーがない! 部屋やクローゼットを確認してもない!
心当たりのある友人に聞いて確認してもらっても見つからなくて……修学旅行2日目にローファーがなくなるって最悪じゃないですか。このあとに行く長崎のオランダ坂をどう登ればいいんだよ!という絶望のなか、とりあえず朝食会場にはスリッパで行きました。そこで先生に事情を話し、男の先生が会場で「田村のローファーが行方不明になりました。見つけた人は教えてください」とマイクでアナウンスしてくれました。
恥ずかしい……いくら中学からの付き合いとはいえ、みんなに「田村、ローファーなくしたのか」と思われるのはキツい。で、結局朝食を終えてから部屋をもう一度探したら、ベッドの下からローファーは出てきました。
ベッドカバーがあるので、そこをめくるに至らず見つけられなかったのですが……どうやら人が出入りするうちに中に入り込んでしまったようです。「見つかってよかった!」という話なんですが、ホテルを出てバスに乗る間にも、いろんな人が「ローファーあった?」と心配してくれました。そのたびに「いや、結局部屋にあったんだよ」なんてほんとお騒がせ。もう首から「ローファー見つかりました、ご迷惑をおかけしました」と書いた紙をぶら下げたい気持ちでした。
これが出席番号23の田村真子です。全然しっかりしていない。
それから大人になって成長しましたが、社会人も誰しもどこかで意識をして、背筋を伸ばしてがんばっていますよね。だからどこかで力を抜いて元に戻らないと!
私は気の置けない友人たちと中身のない話をすることが大好きです。ちゃんとせずに適当なことばかり言い合えるのは本当に楽しい。今年の春に行った同級生6人での旅は本当に楽しくて気楽で、帰りの電車で寂しくてつらくなるくらいでした。こうやって素になって「本来の自分」の感覚を思い出してみると「今の自分ってがんばっているなー」「こういうところで無理していることもあるんだな」と自分を労るきっかけになりますね。
過ぎ去る日々を生きることで精いっぱいですが、たまに振り返って自分への理解を深めることって大事です。言語化できなかったモヤモヤの原因がなんとなくわかったり、心だけでも柔らかくすることができます。私もこのエピソードはずっと忘れていたのですが、この連載が思い出すいい場になりました(笑)。
たまには過去の恥ずかしエピソードをみなさんも思い出してみてください……。
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