つるの剛士「普通の声で」がトーンポリシングでも、わたしは人を語り口や態度で判断する

2020.6.14


「臆病な沈黙よりは、愚かな発言のほうがよい」

過去にもつるのさんはツイッターでの発言がバッシングを受けている。たびたび批判されてきたからこそ、怒りを表明する人に対し、不信感があるのだとおもう。

わたしはツイッターをしていないが、スポーツではない運動に参加したときに吊るし上げられたことがあり、その結果、映画やドラマで、登場人物が強い言葉で問いつめられるシーンを見ることすら苦手になった。

古山高麗雄著『立見席の客』に「発言は金」というエッセイがある。

古山高麗雄『立見席の客』( 講談社 )1975年

小田実が雑誌の座談会で「民主主義とか自由だとか、平等だとか、そんな声高に叫ぶのはやめてくれ、そんなこと叫んだって、浅薄で見てられぬ。それよりは、低声でひそかにつぶやくのがいいんじゃないか――こういう文学批評がよくあるでしょう」と語った。

さらに「私も低声でつぶやくのは大事だと思う。ただ、そういうのが流行になって来て、そんなふうに言うこと自体が自己目的になっているのではないか」と発言した。

古山高麗雄は小田実の問いかけに対し、次のような意見を述べている。

私は、声高に叫ぶことが嫌いであり、恥ずかしいと言っているので、もしかしたら自分も小田さんが批判している中に含まれているかも知れないという気になって来るが、これは自惚れかも知れないのである。どっちにしても、臆病な沈黙よりは、愚かな発言のほうがよいとは思う。(中略)沈黙の中に避難してしまえば、まちがいも愚かなものも、何もわからないので話にもならない。

古山高麗雄『立見席の客』「発言は金」

つるのさんの件でいえば、「普通の声で」というツイートもしないよりしたほうがよかった。おかげでわたしはトーンポリシングについて知ることができた。いい勉強になった。

でもやっぱりトーンポリシングは取り扱い注意の言葉じゃないかなあ。

使い方を間違えれば、怒りまかせの暴言を守る護符にもなりうる。

対話ってむずしいね。


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荻原魚雷

(おぎはら・ぎょらい)1969年三重県鈴鹿市生まれ。1989年からライターとして書評やコラムを執筆。著書に『本と怠け者』(ちくま文庫)、『閑な読書人』(晶文社)、『古書古書話』(本の雑誌社)、編著に『吉行淳之介 ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)、梅崎春生『怠惰の美徳』(中公文庫)などがある。毎日新聞..

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