いとうせいこう×上田晋也「不得意を怖がらない」から“おもしろさ”は生まれる

2020.1.15

人の見え方を変えるのが好き

上田 バカリズムもせいこうさんのことを恩人だと言ってましたし、くすぶってる人間にスポット当てて伸ばすのが好きなんですか?

いとう うん。フックアップしたくなる。他の方向から光を当てて、見え方を変えるのが好きなんだ。

上田 それも出身が同じだとか事務所が同じだとか関係ない。無償の愛。僕の中ではファザーテレサですよ。僕はせいこうさんから「人に請われてやることはすごい大事」だと学びましたね。

人間誰しも自分で得意だと思っている必殺技があるけど、それで仕事が増えるわけじゃない。僕は討論もうんちくも得意だとは思ってなくて、でも呼ばれるから続けた。そうしたら「あいつはワケわからないけど説得力ある」みたいなことを言われだして、結果、何となくの特技も陽の目を浴びるようになったので。

いとう 自分の不得意を怖がらないのが大事。だって不得意なことって面白いもん。俺は企画を考える時、自分は記憶力がない、エピソードトークができない、絵がヘタというところから考えるもんね。

上田 今、気にかけてる若い人っています?

いとう 最近は劇団ナカゴーが面白くてさ……(その魅力をしばらく熱弁)。「いとうフェス」にも呼ぶけど、今はナカゴーをどうにかしたい。

上田 よくそういう才能を見つけてきますよね。どうやって情報収集してるんですか。

いとう ナカゴーの場合は、信頼している事務所の女優さんが「絶対気にいるはず」って教えてくれた。だからそういうセンスがあって、ハブになる人をどう見極めるかだよね。俺、そんなに映画観たり音楽聴いてるわけじゃなくて、決め撃ちだから。あとは出会った時の目つき。

上田 目ですか!

いとう 上田も昔は人殺しみたいな目をしていて……。

上田 芸人失格でしょ、それ(笑)。でも覚えてます。「上田くんの腹にイチモツ持っている、虐げられた感じは大事だ」って言われました。

いとう そういう「ふざけんなよ」という眼差しを見ると、いいなーって燃えちゃうわけよ。何か持ってるのに誰にも伸ばしてもらってないから、伸びしろが格段に違うじゃない。おそらく自分も若い時は同じ目をしていたんだと思う。升野(バカリズム)もそうだよね。ニコニコしてるけど笑ってない目。

上田 その見抜く力ですよ。僕はね、政治家になってほしいわけじゃないけど、せいこうさんに地方創生大臣をやってほしい。「この町はこれアピールすれば人集まってくるぞ」とアイディアを出すような。発展途上国でもいいし、日本でやったら国力あがりますよ。

いとう あげるかー!?(笑) まあ実際、疲弊した地域に行って提案したりすることもあるんだよ。ただいかんせん忘れっぽいし、飽きっぽいからな。

いとうせいこうは記憶力がない

上田 フットワークが軽くて燃えあがっても、持続しない。フランベみたいな人だ(笑)。ただせいこうさんの記憶力がないと言っても、世間は信じないでしょ。

いとう 記憶力はないね! 特に最近ひどい。

上田 だって家を片付けてたら、ユン・ピョウ(香港のアクションスター)のレコードが出てきたんですよね? 「何だこれ?」で一応聞いてみたら、日本語詞がいい。「ああ、これに惹かれて買ったんだな」とクレジット見たら、「作詞・いとうせいこう」(笑)。

いとう いいサビだったんだよな~。あと収録で、ひな壇にいたチュートリアル・徳井くんの名前が出てこなくて、「その横」と言って怒られたもんな(笑)。この頃ボケの進行が速いから、うすうす「あの人、本当は知らないんじゃないか?」ってバレてる気はしてる。

上田 せいこうさんは、僕に「早くボケ始めろ」と言いますよね。

いとう 切れ味だけで売っていて、「あいつは鈍った」と言われるのはきついじゃない? だけどボケを入れておくと、本気でボケた時に助かる。バカボンやれというのもそういういことだよ。ただボケてるのをカバーする、むやみな説得力が自分にはちょっとあってさ。

上田 相当ありますよ。

いとう 帰り道に先頭に立って歩くと、妙な説得力があるからみんなついてきちゃうんだ。そして迷いもなく違う方向に行って、何人か犠牲になる(笑)。

俺ね、古今亭志ん生の一番面白いと思うくすぐりがあるの。いきなり「ここはひとつ私に任せてください。悪いようにはしませんから」と言うと、客がドーン笑う。崖っぷちでもニヤニヤ笑っていられる座りのよさであり、何の根拠もないのにその場を収めちゃうすごさ。

その無根拠な説得力の牙城は、上田くんに守ってもらうとして(笑)、これからはどれだけ自分の加齢を楽しむかだね。あとは鋭いヤツになるべく早くツバをつけて、自分の味方にしておこうと思っている(笑)。

【後編】いとうせいこう×上田晋也 退路を断つのが好きに続く

いとうせいこう
1961年生まれ、東京都出身。1988年に小説『ノーライフ・キング』でデビュー。
1999年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞、『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。近著に『鼻に挟み撃ち』『我々の恋愛』『どんぶらこ』『「国境なき医師団」を見に行く』『小説禁止令に賛同する』『今夜、笑いの数を数えましょう』『「国境なき医師団」になろう!』などがある。
執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。
みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。
音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。現在は、ロロロ(クチロロ)、レキシ、DUBFORCE、いとうせいこう is the poetで活動。
テレビのレギュラー出演に『ビットワールド』(Eテレ)、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)、『トウキョウもっと!2元気計画研究所』(TOKYO MX)、『新TV見仏記』(関西テレビ)などがある。

上田晋也(うえだ・しんや)
1970年、熊本県生まれ。高校のラグビー部で知り合った有田哲平とお笑いコンビ「くりぃむしちゅー」を結成。ツッコミを務める。近年はコンビでの活動だけでなく、切り返しの速さや知識量を生かし『おしゃれイズム』や『Going! Sports&News』といった番組で司会者も務める。

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鈴木 工

(すずき・たくみ)ライター。雑誌『プレジデント』、『芸人芸人芸人』など、芸人関係からビジネスまで執筆する。

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