爆笑問題・太田光「もっとカッコよく生きたかった」笑いのために、居場所を探しつづける

2021.6.25
太田光/爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

爆笑問題・太田光は、自身のキャリアを振り返ってこう語る。「テレビ史に残る仕事なんて、なんにもなかった」。それでも、彼への憧れを口にする若手はあとを絶たない。それは太田光が自身の芸、そして「大衆」と愚直に向き合ってきた証左だろう。自分の思ったことしかしゃべれない男は、迷いながら、揺れ動きながら、今よりも“もっと面白い未来”を見据えている。

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※この記事は『クイック・ジャパン』vol.156(6月24日発売)のインタビューを一部抜粋したものです。


物申すなんてカッコ悪くて、やりたくない

太田光/爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──太田さんは世論に流されずに、自分の意見をはっきり主張してきましたが、それに対する周囲の誤解や反発についてどのようにお考えですか?

太田 どっかからクレーム来たとか、それはもう大変ですよ。その都度、「ああ、失敗した」って一喜一憂しながら……って感じですね。社長に怒られて、謝って謝って……っていう。「もう二度とトラブルを起こすまい」っていうのの繰り返し(笑)。ずーっと、そうですよ。

──それでも主張することはやめられない。

太田 やめられないっていうか、何を話せばいいかっていうと、自分の思ってることしか話せないから。だから、言ってるときには、まさかそんな大ごとになるとも思ってないしね。そこはもう未だに読めないですよね。計算できない。

──太田さんはビートたけしさんの著書『時効』の解説で、たけしさんに対して「ひとりの人間の価値観とか生き方を大きく変えた」ことを、「悪事」「罪」と表現して「それには時効がない」と書かれていました。そういう意味で、太田さんの発言も周囲に多大な影響を与えてるのはかなり「重罪」だと思いますが。

太田 フフ、そうかな? (立川)談志さんも、(ビート)たけしさんも、俺はやっぱりあの人たちに相当、悪影響を受けたからね。悪いことを吹き込まれたから(笑)。だから、もし自分が若い人にそこまでやれてるとしたら、うれしいですよね。

──その解説の中で、「自分は偽物だから」「無粋に野暮に生きることしかできない」とも書かれてますけど、そのような考え方になったきっかけはあったんですか?

太田 俺らも本当はもうちょっとカッコよく生きたかったんですよ。でも、結局エリート路線から外れたんですよね。それがいつだったのかっていうと、太田プロを辞めたときだと思うけど。本当はコースに乗ってたはずなんだけど、そうできなかったんだよね。だから、もうなんでもやるしかないっていうか。

本当はお笑いだけやるほうがいいんですよ。政治に口出すとか、物申す的なことってカッコ悪いから、やりたくない。芸人としては無粋ですからね。だからいつまで経っても、さんまさんはカッコいいわけですよ。そんな野暮なことをやらなくてもトップに君臨しつづけているわけで。でも、俺にはそれができないっていうのは明らかだったからね、20〜30年近く前から。だからそれは早々に覚悟は……覚悟ってほどのものじゃないけど、カッコ悪くやっていくしかないなって。

映画で喜劇が作れた時代に憧れて

太田光/爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──「カッコ悪くやっていくしかない」というのは、テレビの持つ“大衆性”を大事にしてきた太田さんのスタンスにも通じるものがある気がします。「わかる人にだけわかればいい」という態度に対しても、太田さんは一貫して否定的ですよね。

太田 そうですね。テレビってやっぱ数字なんです。いくら「これは高尚なことをやってるんだ」って言っても、視聴率が悪ければ打ち切りになるわけだし。お笑いっていうのは、どう考えても大衆向けのものなんだよね。やっぱり俺が好きだった喜劇人はみんな大衆芸能ですから。

それは喜劇に限らず、文学にしてもそう。たとえば芥川賞作家より、俺は直木賞のほうが作品としては全然おもしろいと思うしね。向田邦子さんだって、必ずゴールデンの茶の間に向けて発信していったわけで。欽ちゃんもドリフもクレージーキャッツも、俺が好きなものがみんなそういうものだったってことですよ。

──やはりそういう意味でも「テレビでやりたい」という気持ちが強いんですか?

太田 テレビももちろんそうなんだけど、たとえば『男はつらいよ』みたいな映画もね、あれなんかまさに大衆に向けた喜劇じゃないですか。昔、日本にはクレージーキャッツの『無責任シリーズ』もあったし東宝の『社長シリーズ』もあったし、映画で喜劇ができたんだよね。で、お客は満杯になるっていう。そういうものを作りたいなあっていう夢は、今でも若干あるけどね。

──一方で、太田さんは大衆性という意味ではちょっと異なる、ラジオへも強いこだわりがあると思います。それはどんな理由からなんですか?

太田 ラジオはもうたけしさんからの影響です。『ビートたけしのオールナイトニッポン』が、俺が生きてきた中で、一番のカルチャーショックを受けたものだったから。それはツービートの漫才よりも、もっと影響力が大きかったんだよね。2時間のフリートークであんだけ笑わせるっていうのは尋常じゃないですよ。そこは今も目標にしているところではあります。


自分の居場所がないか、常に探しているような状態

爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──昨今はお笑い芸人の活躍の場が、YouTubeやNetflixなどネット配信にも拡大されていっています。

太田 貴さん(石橋貴明)が「戦力外通告」って言って、YouTube始めたでしょ。貴さんは俺らより一世代上だけど、よくパワーあるなって思う。俺がもしそうなったら、もう一回、今度はネットでがんばろうっていう気力はないかもね。でも最近思うのは、(カンニング)竹山が有料サロンみたいなの始めたでしょ。BSのセットを使って、本当にテレビ番組みたいに撮ってる。こういうことができるのかって思うと、たとえば俺らがずっとやりたかったコント番組みたいなものは、今まではテレビで枠を取って、いちいち企画書出してってやって、ずっとはねられてきたけど。

もしかしたら今は、YouTubeとかで、タイタンで勝手に始めちゃっても成立するのかなって気はしてる。一個セット組んじゃえば、そこで毎週、何かしらコント撮ったり。それをある程度支持する人がいれば、それはそれでいいんだろうなっていう。昔はゴールデンで視聴率20パーセント取んなきゃって思ってたけど、そうでもなくなってきてるなって。

──「純粋な混じりっ気のないコント番組がやりたい」と前からおっしゃっていましたが、それがテレビでなくてもいいと。

太田 今までずーっと俺はテレビにこだわってたんだけど、いろんな入口ができてるから。それこそもしかしたらYouTubeなんかでお笑いができちゃう時代になるのかなって。

──そうした考えはちょっと前までは持っていなかったと思うんですけど。

太田 そうそう、最近だね。

──それは、心境の変化があったんですか?

太田 心境の変化というよりは、まわりの環境の変化かな。中京テレビで『太田上田』っていうのを始めたときに、最初は地方で適当にしゃべってればいいやって思ってやってたんです。そしたら、あの番組が勝手にYouTube始めたんだよね。それがけっこう評判いいって話になって、実際「観てます」って言われることが多くなって、そういうパターンもあるのかって。自分もテレビは観るけど、YouTubeに限らず、Netflixも観てたりね。Amazonプライムとかでも、いいもの作れるんだなってわかってきたし。

……それとは別に、たとえばさんまさんっていう人は、本当にテレビの申し子みたいな人なんだよ。だからあの人は美意識が高くて「テレビを守るんだ」っていう思いが強いんだけど、俺らはそこまでいけてない人間だから。さんまさんがやってきた『(オレたち)ひょうきん族』やら、『笑っていいとも!』やら、『さんまのまんま』、『(踊る!)さんま御殿!!』……ああいうテレビで大ヒット番組を連発してる人には、俺らは遠く及ばないからね。俺はどっかに自分の居場所はないのかって常に探しているような状態だから。もしネットのほうで、やりようがあるならそれはそれでいいかなと思うんだよね。

太田光/爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──選択肢が増えたことは芸人さんにとってもいいことですよね。

太田 いいことっていうか、これからまだ変化すると思う。つまり、たとえば『太田上田』がYouTubeで評判いいよってなったときに、お客さんがどこまでテレビに帰ってきてくれるのかっていうことですよ。で、じゃあもう一回これを地上波のど真ん中で、っていうところまで行けるかどうか。あるいは、Netflixとかでうんと金かけてやれば、そっちのほうがいいものができるかもしれない。

──そこで太田さんが求めている大衆性というか、広く誰もが楽しめるという理想と、両立できると思いますか?

太田 我々が子供のころは、ずいぶん贅沢な時代だったんですよ。あんな金のかかった番組を、タダで観れてたってことだから。でも、メディアにお金払うのは当然っていう意識の人がお客さんのほとんどを占めるようになってくるとするならば、それはそれで成立するんじゃないですかね。

……この前、ラジオに光浦(靖子)が来て話してたんだけど、自分も50歳になって、「もう第七世代の若手は自分のことを知らない」とか言うわけ。それだけ『めちゃイケ』が終わったっていうのは彼女にとってすごい大きなことだと思うんだよ。でも、俺から言わせると、フジテレビの土曜8時の枠でバラエティをやるっていうのは超エリートなわけですよ。『めちゃイケ』っていうのはその中でもナンバーワンで、必ずテレビ史に残る番組だからもっと誇っていいし、うらやましい。やっぱりそういうところで戦ってきた人間には、俺らは足元にも及ばない。本当に横で歯ぎしりして観てたから。

──悔しさがあったんですね。

太田 うん。それはもう、燦然と輝いてる。

──太田さんのキャリアで「テレビ史」的に見て、爪あとを残せたなっていう手応えはありますか?

太田 なんもないね。なーんもない、本当にないです。

俺が考えてることは一般ウケしないから


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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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