爆笑問題・田中裕二「目標も上昇志向もない」悩みゼロ人間の生き方

2021.6.23
田中裕二/爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

文=西澤千央 撮影=木村心保
編集=渡部 遊


田中裕二がわからない。いつもにこやかで、人当たりよく、ツッコミ、MC……求められた役割に徹する。一般的な認識は「太田が変人、田中は常識人」だった。しかし、私たちは本当の田中裕二を知らないのではないか。盟友・ 伊集院光は言う。「太田さんは変な人、田中さんはバケモノ」。 教えてほしい、本当の田中裕二とは?

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.156(6月24日発売)のインタビューを一部抜粋したものです。


ベテランがウケるのは難しい、そこからどう裏切るか

爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──手放しで「うれしい」って感じるのはどういうときですか? 謙遜も忘れて「やったー」みたいな瞬間は。

田中 なんだろうね……どかーんとウケたときなのかな。たとえば、漫才をやって、お客さんが涙流して腹抱えながら笑ってたら、それ以上のものはないですよ。でもそんなことめったにないですから。

──めったにないですか。

田中 それってねえ、どんどん厳しくなってくるんですよ。つまり、僕らがそれを経験したのは、デビューしてからすぐ、若手の数年だけ。メジャーになってくると、そうなりづらくなってくる。ネタって、できればその人の本当のことは知らない、まっさらな状態で見せたほうがよりウケやすいんです。売れるとなんであんまりみんなネタをしたくなくなるかっていうと、ウケが単純に減るから。もうキャラクターも知ってる、「おなじみの」人たちがネタをやっても、そこまで純粋におもしろいと思えない。

でも、どこのどいつかわからないのが突然出てきてとんでもないことをやるってなったら、おもしろい!ってなるじゃないですか。それこそミステリアスなんですよ。俺らが出て行って、俺の片玉をイジったところで、別になんの新鮮さもない。それが何周もして定番ギャグとしてウケるまで行くのは、それはそれでまたすごいんだけど。

爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──2年前の『M-1』のミルクボーイさんのような。

田中 そうそう。視聴者はミルクボーイなんかほとんど知らなかった。あのネタも、ほとんどの人にとってみれば、初めての体験だったよね。そういうのがバーンと来たときに、そこにベテラン組が対抗するのは難しい。よっぽどとんでもないネタを発明できたら別だけど。だからやっぱり……ネタでウケるっていうのが、一番手放しでうれしいことですね。

──「とんでもないネタ」は、爆笑問題さんがずっと大事にされてる部分でもあるのでは?

田中 どうなのかな。たとえば、若手がいきなり出てきて超毒吐いて、「こんな新人がそんな毒吐くんだ」って意外性でウケるパターンもあるじゃないですか。でもそれがわかってくると、またどうせ毒吐くだろってなるし、しかも売れてくればその毒がちょっと弱まったりね。俺ら最初はどっちかっていうと、そういう感じで。最初はインパクトあって、ブワーッと勢いが出るんだけど、そこからの第二変態、第三変態が難しいし重要だったりするのかもしれないですよね。

僕らはいわゆる時事漫才を30年ぐらいやってるけど、ネタは尽きないんです。いろんなニュースが起きるから。でも時事問題をやるっていう点においての新鮮さはもうないですよね。今俺らがハイど~もって出てきたら、どうせガッキーと星野源のネタやるんだろうなって思うじゃないですか。だからそこの裏切りは難しくはなってるんですけど。ただあとは、ネタの内容でどうみなさんを裏切っていくか。

上田や後藤のツッコミには敵わない

──田中さんの中で、ツッコミという役割、爆笑問題におけるツッコミの意味みたいなものの変化はありましたか。

田中 これはねえ、難しいんだよね(笑)。もともと最初ツッコミとかボケとか、ふたりで決めたり相談したこともなくて。で、漫才始めたときも、ひとりでずっとしゃべってる太田に、俺は横で相槌打ったり、すげーなって笑ってるみたいな、ツッコミとして機能しているわけではなかった。

ちょっと漫才のネタが変わっていくときに、俺が「ンなわけねーだろ」「違うだろ」という感じの否定をするようになって。そのへんからネタ振りを俺がやって、太田がボケて俺がツッコむというのがひとつのパッケージになってきた。まあ太田曰く、俺のツッコミはまったく進歩しないし、100パーセント間違えるって。くりぃむしちゅーの上田(晋也)とかフットボールアワーの後藤(輝基)とかそういうツッコミには到底敵わない。俺のツッコミっていうのはもっと単純に否定するだけ。だから昔の漫才のほうが近いかもしれないですよね。

爆笑問題|クイック・ジャパン vol.156

──太田さんに対して「何もしない」というツッコミは、たぶん田中さんにしかできない……その絶妙な手綱感は、それこそ田中さんがお休みされてたときに代打に立った方々が口々におっしゃいますよね。

田中 みなさんの優しさでしょうね(笑)。まあ太田が絡みづらいのはたしかにそうなんですよ。延々とおんなじボケをずーっと言ったりとか、古いわけのわからない事件のことを今さら持ち出して言うとか、どういうツッコミをすれば正解か、みんなよくわかんなくなっちゃうんです。

しかも(共演するのは)だいたい後輩が多いんでね。だから「ああ、これで太田さん満足いっただろうか」「心配だなあ」っていう不安もあったりして。疲れるだろうし。するともう最後にはもう勘弁してくれよ、田中さんすげーなみたいな感覚になるんでしょうね(笑)。こんなのよく何十年もやってるなあって。

ピュアであることは、狂気でもある「目の色変えて語り出しちゃう」


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西澤千央

(にしざわ・ちひろ)1976年生まれ。神奈川県出身。実家の飲み屋手伝い→ライター。『クイック・ジャパン』(太田出版)や『文春オンライン』、『GINZA』(マガジンハウス)などで執筆。ベイスターズとねこと酒が好き。

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