ピュアであることは、狂気でもある
──太田さんは純粋な存在ですが、田中さんも好きなことにピュアですよね。
田中 うん、やっぱりねー。若いころに影響を受けたタレントでも、音楽でも映画でもテレビ番組でも、なんでもいいんですけど、そういうのは未だに好きだし。そこへの憧れっていうのは歳なんかも全然超えちゃってるしね。太田なんて松田優作さんがずっと大好きで、でももうとっくに優作さんの年を超えてるけど、「優作はいい」っていうのはずっと持ちつづけてる。僕もね、80年代の歌謡曲とかそういう話題になると目の色変えて語り出しちゃう。
それって、ピュアというか、ちょっと狂気ではあるのかもしれない(笑)。ニューヨークぐらいの世代から見たら、そこまでテレビに影響を受けた人たちってちょっと信じられないのかもしれない。もちろん彼らは彼らなりに好きな番組があっただろうし、憧れたタレントさんもいたんだろうけど、そこまで憧れたの?っていうのがちょっと違うのかもしれないよね。
──その憧れを持ちつづけてるからこそ、偉くなりたくない。偉そうにしたくない。
田中 ああ、だからファンのままでいる感覚はあるのかもしれないです。
──自分たちの立場に満足してそこに安住を求めるようになれば、その「勘違い」は終わってしまうような気がします。でもおふたりはそうならなかった。
田中 僕らは国民的大人気番組を体験してないから。漫才ブームだ、『いいとも』だ、『ひょうきん族』だとんねるずだ……そういうのをずっと観てきたけど、まだ自分たちはできてないんです。それを達成してたらどうなっていたか。
──若手からイジられても爆笑問題さんはめちゃめちゃ楽しそうに笑ってたりするじゃないですか。上下をことさら示さないのはそういうところにも理由はありそうです。
田中 そうそう。あんまりお笑いの上下みたいなのって好きじゃないですね。僕なんかも、気がついたら『いいとも』でタモリさんにめちゃめちゃツッコんでたし、たけしさんにツッコんでた。そのときにたけしさんがうれしそうに笑ってくれたり、もう信じられない、夢のような体験だと思いながらやってました。大御所はツッコむと喜ぶっていうのを経験してるんです。
で、ツッコミっていうのは、それができるんですよね。芸歴が上だろうが、ボケたらそれはツッコんでほしいわけで。俺みたいな年下の後輩が「何言ってんだよ!」っていうのが成立する。まあそれは本当に幸せですよね。
──ニューヨークさんのYouTubeで、ゲストのウエストランドさんが田中さんと太田さんの芸人名鑑を作る回があったんです。たとえば太田さんだったら、ピストルとか、ぴょん吉のTシャツとか、特徴的なものをピックアップして。一方、田中さんで最初に出てきたのが「ビー玉の目」。次に出てきたのが「悩みゼロ」でした。井口さんいわく「田中さんは人類史上初の悩みゼロの人間」だと。
田中 あいつ(笑)。
──でも悩みってどういうときに生まれるのかなって考えると、理想の自分と現実の自分とのギャップなんじゃないかと。田中さんはそこにズレがない。
田中 ああ、そうだね。いわゆる芸人が抱える悩みっていうのは、もっと売れたいとか、もっとウケたいとか、そういうのが一番わかりやすい。そういうことでいうと僕は、あまりないんですよね。悩みというような悩み。そもそも上昇志向があんまないから、目標とかビジョンがないんですよ。だから今居心地がいいとか、気持ちがいいとか、たぶんそういうことでしか生きてないような気がします。
──まさに猫ですね……。
田中 そう、その場その場の気持ちよさだけ(笑)。
※『クイック・ジャパン』vol.156では、田中裕二と太田光それぞれに約9000字のロングインタビューを実施。『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』の密着取材、ハライチ岩井勇気や空気階段による“爆笑問題イズム”語りなど、世代を超えた多くの関係者からの証言も集まっている。特集の最後にはタイタン社長・太田光代からの総括も掲載。
また、楽天ブックスでの数量限定発売となる『クイック・ジャパンvol.156 特別版』は、『爆笑問題カーボーイ Quick Japan出張版』として、爆笑問題のトーク音声がダウンロードできるコードが付録している。
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