アートは不要不急か?「社会という檻」でタブーに向き合い、分断ではなく“共生”するために(小田駿一&A2Z)

2021.1.23

タブーとは「社会への口にできない違和感」

小田駿一の展示作品

──老舗の古書店で、現代アートを取り扱う小宮山書店の代表、小宮山慶太氏がアートブックや写真集などの古書を通じて、「タブー」の時系列的な変遷を展示したりしています。おふたりにとってタブーとはなんでしょうか?

小田 社会に対する、口にできない違和感、ですね。ここ20年近くのインターネットの普及で変わったことがふたつあると考えています。ひとつは、ほとんどの人がネットに頻繁に接続するようになり、人や情報とつながることが容易になった。すぐに友達と連絡が取れるような便利な側面ももちろんありますが、負の側面として、つながることで同調圧力が生まれやすくなったと感じています。

たとえば、インターネット等の情報通信技術が普及する以前なら、あくまで例ですが、Aという国とBという国でカルチャーやもっと上位にあるルールやモラルが違っても気づかないし、大きな問題は生まれなかった。一方、現代では容易に比較され、同調圧力により価値観が平準化され、画一的になっている。それが日本だけなく、世界中に広がり、スーパーフラット化した社会になったと感じています。

──確かに、情報の伝達速度が早く、他国の問題がすぐに日本でも問題化されますね。

小田 そうですね。もうひとつは、ここ数十年で情報量が圧倒的に増えたことです。なんでも検索すればすぐに知識を得ることができる。私たちの世代は、ファッションなどのカルチャーが好きで、雑誌を読み、いろいろと調べて、自分なりに考えて解釈をしてきました。それは単に知識を得ることに留まらず、知恵となり、自分の血肉となっています。

しかし、現在のように情報があふれ、興味があることを検索すればすぐに知識を得ることができるのは、知恵ではなく単に知識をダウンロードしているに過ぎないのではないのかという違和感があります。その危うさは、自ら考えるという行為を挟まないので、他人の考えをトレースし、疑似洗脳的に気づかずに陥ってしまうことです。

A2Z それは私も同感ですね。もともと同世代の中で、アートやDJに興味を持ったのも、『Relax』などの雑誌にキャッチアップするのも早かった。とにかくリアルワールドで深く掘り下げて調べることが好きだったんです。今の人たちは、いろんなメディアがあり、情報があふれているおかげで深く掘り下げて考えるよりも、メタ認知して分析するのが得意な人が多いですよね。

小田 調べたり、考えたりしないことの弊害が今回のコロナでも表れているように感じます。たとえば、新型コロナウイルスでこれ以上の死者や感染者を出さないために、どういう対策をすべきかという議論があります。感染対策を徹底し、経済がうまく回らなくても仕方ないという意見と、感染対策はそこそこに経済が何よりも優先だとする意見の二極論の議論を見かける。

そういった白か黒かの議論はすごくわかりやすいし与しやすい。両者の中間であるグレーゾーンの意見を考えることは労力を必要として大変ですから。だからこそ、どちらかの意見をダウンロードしてしまう。すると、白は白、黒は黒の意見で同調し、白と黒が対立し分断が起こる。きっと本当に考えなければならないのは、社会の便益を最大化するグレーゾーンの中にある答えなのに。

アーティストは、そういった社会の違和感にそれぞれの立場で切り込み、問題提起をしています。アーティストの作品に触れることで、自分なりの考えや生き方を模索し、世の中を捉え直してほしい。そう考えています。みんなが悪いと考えていることは、自分にとってはそうではないかもしれない。だから、あえてタブーという言葉を選んで切り口にしたんです。

小田駿一の展示作品

──タブーだなと身近に感じる例はありますか?

小田 たくさんありますよ。精神疾患を長年患っている友人がいるんです。私は、彼が病気だろうが何も気にしません。でも、差別する人も世の中にはいる。だから、彼はそれを恐れ、口にすることができない。そういう社会に対し違和感を感じますね。

A2Z 私の場合、家族や身近にさまざまな経験をした人がいたおかげで、いろんな視点を持つことができている。人間は「分人」と呼ばれるように、親に見せる顔、友達に見せる顔が違うように、決して他人には見せない顔も持っている。そこには単純に色分けできないグラデーションがある。その中にタブーが内包されていると考えています。そういう意味では、今回の展示のように自らの内面にあるタブーを表現することは健全なことではないかと思いますね。

アーティストはどうすれば社会と接続できるのか

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