アートは不要不急か?「社会という檻」でタブーに向き合い、分断ではなく“共生”するために(小田駿一&A2Z)

2021.1.23

トップ画像=小田駿一による展示作品より
文=本多カツヒロ 編集=田島太陽


昨年4月に緊急事態宣言が発出されて以降、「文化や芸術は不要不急なのか」をめぐり盛んに議論が交わされている。その問題をテーマに掲げ、現在開催されているアートフェアが『Gallery of Taboo』だ。

日本橋にある遊休不動産を活用して8組のアーティストが「タブー」を切り口とした作品を展示し、販売収益の半分を時短営業要請で苦境にあえぐ飲食店へ還元しようという地域貢献型の取り組みである。

主催者であり、昨年4月の緊急事態下の東京の夜の街を撮影した写真集『Night Order』が多くのメディアで取り上げられた写真家の小田駿一と、同フェアにも参加している匿名アーティストのA2Zに、タブーとは何か、アートが社会で果たす役割などについて語ってもらった。


危機的状況で、表現者がすべきこと

小田駿一の展示作品

──今回のアートフェアのテーマは「アートは不要不急か」です。これについては未だに議論されています。

小田駿一(以下、小田) 結論として、アートは「不要不急」ではない。アーティストの本質的な役割は、「問題提起」をするということ。社会が混沌としているタイミングだからこそ、できることがあると考えています。

また、アーティストというのは、一般の方より表現能力が高い人たちです。ある問題が起きたとき、たとえば現在のようなコロナ禍で厳しい社会情勢のなかで、言葉以外の何か、たとえば作品によって人々の気持ちに訴え、行動を促すことができる。過去を振り返ると、代表的な例としてジョン・レノンの反戦運動への参加などは思い当たりますよね。

ただ、俗世間から離れ「俺の作品には社会的な意味がある」と訴えるだけなのにも違和感があります。目の前に困っている人々がいるならば、具体的なアクションを起こし、少しでも助けたり、助けられたりして共生していかなければいけないと思います。

──今回のフェアで言えば、販売収益の半分を、日本橋料理飲食業組合を通じて還元する仕組み、などですか?

小田 そうです。大前提として、社会が厳しい状況のときに、政府や他者を批判するのではなく、自助努力をしなくてはいけない。我々、アーティスト発で展示会を開いて、作品を売り、アーティスト自身もどうにか生き抜いていかなければいけないと思っています。

同時に社会で困っている、今回で言えば時短営業で経営が厳しい飲食店の方々へ、本当に微力ながらですが還元し、社会をよりよくしていくべきだと思いますね。私たちの活動は小さな影響しかありませんが、波紋が水面に広がるように、社会に対して一石を投じられればと思っています。

A2Z 今回のフェア自体は、昨年の10月ごろから動き始めていました。小田くんも含め、今回参加しているアーティストたちはポジティブなエネルギーが高いタイプが多いので、緊急事態宣言が出ても、動き出した企画を延期や中止することは考えられませんでした。

むしろ、新型コロナウイルスの感染拡大が続く現在のような状況で何ができるか。そこはアーティストとしてふるいにかけられているし、試されているタイミングではないかと思いますね。この状況で社会にコミットメントできなければ、アーティストとして疑問符がつきます。

歴史を振り返ると、たとえば今回のような新型コロナウイルスのような社会が危機的な状況にあるときこそ、アーティストといった表現者たちは何かをしなければいけないと思うんですよ。その使命感は、アーティストならばわかっていると思います。

今のような状況で、社会に対して問題提起をして、行動を起こすことが重要だと考えているのは、アーティストに限らず、ビジネスマンでも科学者でも多いとは思います。ただ、発言だけで、なかなか形にならない。

未曾有の状況で考察して、表現し、行動に移す、というすべてをできるアーティストは少ないのが実情です。そういう意味では、小田くんのように表現第一主義者でありながら、ビジネスも語ることができ、今回のように若手から小宮山書店さんのような大先輩までを巻き込んで行動できるのは新しいアーティスト像だと思いますね。私自身も若いころは、精神的に余裕がなく、今回のようなことはできていなかったのもまた事実です。

A2Zの展示作品

──今回の『Gallery of Taboo』というコンセプトは、どういう経緯で決まったのでしょうか?

小田 昨年4月の緊急事態宣言の際、『Night Order Project』というクラウドファンディングを行いました。これは緊急事態下の東京の夜の街を撮影した写真集『Night Order』を制作し、販売収益の一部を、思いに賛同してくれたバーに還元する取り組みです。このプロジェクトを通じて、ほかのアーティストとのコラボレーションでいい写真集ができた。また、賛同してくれた飲食店へも多少は貢献することができたという非常にいい循環が生まれました。

その後、新型コロナウイルスが収束しない状況で「何かできないか」と考えていたとき、『Gallery of Taboo』というコンセプトが頭の中に浮かんだんです。今度は私がおもしろいなと思っているアーティストたちと一緒に、クラウドファンディングで生まれたような“よい循環”を生み出す展示会を開催できないかと。

タブーとは「社会への口にできない違和感」


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本多カツヒロ

(ほんだ・かつひろ)1977年神奈川県横浜市生まれ、東京都育ち。2009年よりフリーランスライターとして活動。健康・医療からエンタメまで幅広く執筆。

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