行定勲監督が語る『くまもと復興映画祭』への想い。今、映画祭を行うということ

2020.10.29

文=相田冬二 編集=森田真規


去る10月2日から4日までの3日間、熊本県熊本市の熊本城ホール・メインホールにて『えがおPRESENTS くまもと復興映画祭2020』が行われた。

今年2020年は、新型コロナウイルスの全世界的蔓延により、映画を含むあらゆる文化が、その表現の場に極端な制限を加えられることに。映画祭も例外ではない。多くの映画祭が本年度の開催を見送ったり、オンラインでの開催に移行するなか、『くまもと復興映画祭』は、リアルに重きを置きながらリモートも組み込んだ「新時代の映画祭」を成功させた。

上映作品はわずか9本。小さな規模の映画祭ではある。しかし、地方都市でのこの果敢な試みは、「映画祭とは何か」について再考を促す絶好の機会となった。10月31日からは「第33回東京国際映画祭」が、その前日30日からは「第21回東京フィルメックス」が、初の同時期開催をスタートさせる。

『くまもと復興映画祭』のディレクターを務める行定勲監督のインタビューを軸に、同映画祭を振り返ってみたい。

映画監督が映画祭をやる時代になってきた、その理由とは

2014年から、同映画祭の前身に当たる『菊池映画祭』のディレクターを務めている行定監督。きっかけは、2012年にゲストとして同映画祭に招かれたことだった。

「僕の特集上映をしてくれたんです。前年の倍のお客さんが来てくれたようですが、それでも会場はガラガラ。そこで、映画祭スタッフである若い有志の人たちに聞いたんです。『どうして映画祭をやりたいの?』と。すると、『映画って人がいっぱい集まるものじゃないんですか? そう思ったんです』という答えだった。菊池というところには映画館がない。彼らも映画をテレビでしか観たことがなかった。そんな人たちが『映画は人が集まるもの』と思ってくれていたことに、目から鱗でした。
僕ら(映画人)は、映画にはそう簡単にお客さんは来ないよ、という考え方をするけれど、映画祭を企画する人は、映画にはたくさんの人が集まると思ってる。その言葉に感動したんです。そこでは映画の可能性が信じられていた。彼らから『どうしたらいいんですか?』と相談を受けるうち、2014年から映画祭のスーパーアドバイザーを務めることになりました」

行定 勲(ゆきさだ・いさお)1968年生まれ、熊本県出身。監督作に『GO』(2001年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『パレード』(2010年)、『リバーズ・エッジ』(2018年)などがある。2020年には『劇場』と『窮鼠はチーズの夢を見る』、2本の監督作が劇場公開された

2014年、『第10回菊池国際交流映画祭』では行定監督同様、熊本出身の俳優、高良健吾の特集上映を行い、800席を満員にすることができた。

「やはり熊本出身の坂本あゆみ監督の『FORMA』を上映すると、お客さんから次々に質問が来て、すごく盛り上がるティーチインになったんです。けっしてわかりやすい映画ではないけれど、だからこそ、素直な質問や深い解釈も飛び出して、監督も感激していた。ここで僕も欲が出て、じゃあ、次は映画を作ろうと。高良健吾と橋本愛と姜尚中と石田えりで『うつくしいひと』という映画を撮り、2016年の映画祭で上映しました」

FORMA Trailer

ところが、その約1カ月後、熊本地震が起きる。

翌年の2017年からは「復興」の2文字を映画祭名に加え、菊池市と熊本市の2会場を結ぶ『くまもと復興映画祭』となった。

「『復興映画祭』ってあるのかな、と思って、世界中を探したんですけど、なかったんですよ。思いつきではありましたが、復興の途上にある映画祭、ということでもいいのではないかと。『復興』の文字はいつか取れるかもしれませんが、少なくとも完全復興は震災から20年後と言われている。熊本城が完全修復されるのが2036年予定。そこでようやく復興でしょう。熊本城は熊本のシンボルですから」

くまもと復興映画祭/2020-10-02/1日目

今年は、昨年12月にオープンした熊本復興のシンボルでもある複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」内にある熊本城ホールで開催された。ピカピカの大ホールからは、熊本城が望める。しかし、お城の城壁は修復のため、シートで覆われたままだった。

今年から会場として利用されることになった熊本城ホール

「映画祭をお願いされたとき、自分は現役の監督だから、呼ばれて参加する側で、映画祭をやる側じゃないよ、という想いも正直あったんです。なんだか、最前線でいられなくなる気もして。でも、地方で、いろいろな監督たちが映画祭をやる時期に差しかかっていた。
亡くなった佐々部清監督の下関『海峡映画祭』、本広克行監督の香川『さぬき映画祭』、河瀨直美監督の奈良『なら国際映画祭』、園子温監督の豊橋『ええじゃないか とよはし映画祭』。映画監督が映画祭をやる時代になってきたんですね。そこには、もしかしたら理由があるかもしれない。映画祭の必要性みたいなことは常に考えています」

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