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移動自粛を求められる日々のなかで
『cocoon』の出演者が決まったのは、3月27日だった。
本稽古に先駆けて、4月には何度かプレ稽古が開催されるはずだった。だが、3月の終わりから4月にかけて、状況は悪化の一途を辿った。新型コロナウイルス感染者は増えつづけるなかで、感染の拡大を防ぐために、予定されていたプレ稽古はすべて中止となった。プレ稽古の中止を伝えるメールには、「公演が実施できるか否かの判断も、政府が緊急事態宣言の期限として定めた5月6日以降に検討する」という旨が記されていた。5月に入ってからもウイルスの猛威は収束する気配を見せず、緊急事態宣言は延長されることになり、公演の可否の判断も保留されることになった。皆が新宿三丁目の雑居ビルで顔を合わせたのは、5月20日のことだ。
「この一カ月以上、『cocoon』って作品の公演をどうするのか悩んだし、今も悩んでる状態なんだけど」。藤田くんは出演者の皆を前に、そう語り出した。「公演に関して、どういう変化があったかってことも話したいんだけど、ぼくの中でまだまとまってない気持ちと、ようやくまとまってきた気持ちがぐちゃぐちゃとあるので、ゆっくり話したいと思ってます」と。
出演者の皆にも、公演の可否はまだ伝えられていないようだった。首都圏から少し離れた場所にいる人にはビデオ通話をつなぎながら、藤田くんは言葉を選ぶように話してゆく。
「『cocoon』の初演は7年前だけど、その2年前ぐらいから沖縄に足を運びつづけてきて、10年近い取り組みをしてきたんですね。沖縄とどう関わっていくかってときに、『沖縄のことを扱った作品を描く人は、沖縄の人じゃなきゃいけない』というようなムードもあったんだけど、今日さんが2009年に『cocoon』の連載を始めたときは、ぼく以上に大変だったと思うんです。沖縄以外の人が沖縄戦を描くのはどうなのかってことを、今日さんは直接言われてきたと思うから。ぼくが今日さんの思いに共感するのは、『その問題を沖縄の人だけが考えるんじゃなくて、東京に住んでいるぼくらだって考えるべきだ』ってところなんですね。沖縄に押しつけられていることや、繰り返しつづいてきてしまっていることを、沖縄の人たちだけが考えなくちゃいけないこと自体が変だなと思って、ぼくは『cocoon』に取り組んできたんです」
もちろん、藤田くんは沖縄だけを描いてきたわけではなく、いろんな土地を描いてきた。2012年、いわき総合高校の生徒たちと『ハロースクール、バイバイ』を上演して以降、『まえのひ』、『あ、ストレンジャー』、『Rと無重力のうねりで』といった作品を福島で上演し、2016年からの3年間は『タイムライン』というミュージカルに福島の中高生たちと取り組んできた。あるいは、2013年に初めての海外公演としてイタリアを訪れると、その翌年には再びイタリアツアーを行い、そこで出会った俳優たちと数年かけて『IL MIO TEMPO』という作品を作り上げてもきた。そこに共通するのは、自分が生まれ育ったのとは別の世界を、「わたし」のこととして想像することだったように思う(当事者以外、誰も目を向けなくなってしまった世界は、出口のない地獄と化す)。
だからこそ、『cocoon』を上演するに当たり、藤田くんは作品を巡演させることにこだわってきた。2013年の初演は東京だけでしか上演することができなかったけれど、2015年の再演6都市を巡り、今年も全国をツアーしたあとに沖縄で千秋楽を迎えることになっていた。
「それで、今年の『cocoon』がどうなったかと言うと、沖縄公演が難しくなってきたということがあって」。藤田くんが静かに語る。「具体的に言うと、『那覇市が主催するイベントはすべて中止とする』ということになって、そこですごく悩んだんですね。というのは、演劇って形のないものだから、作れちゃうものだと思うんです。どうにか皆で集まって、どうにか工夫すれば、作れちゃうと思うんですね。だけどそれは、今年の『cocoon』でやりたかったこととは違うものになってしまう。音楽を担当してくれる原田郁子さんとは、『今年の「cocoon」は、沖縄で録音した音だけを使って上演したい』と話してたけど、今は沖縄に出かけることが叶わなくなってますよね。それでも作品は実現できちゃうと思うけど、それは思い描いていたイメージと乖離したものになってしまうし、沖縄を置き去りにするような形で『cocoon』をやっていいのか、すごく葛藤したんです」
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