マームとジプシー『cocoon』を再訪する【第2回】今とは違う世界を思い描くこと

2020.6.1

何百年という規模のリフレインを想像する

何百年という規模のリフレインを想像する

藤田くんはホワイトボードに、2015年の『cocoon』以降に描いてきたいくつかの作品のタイトルを書き出してゆく。

『BOAT』
『BEACH』
『BOOTS』
『CITY』

そして、今年の春に上演されるはずだった『CYCLE』。こうして書き出してみると、「B」と「C」から始まる作品がつづいていたことに、このとき初めて気づかされた。

「僕の中では『CITY』が一番最近作った“新作”なんだけど、『CITY』、『CYCLE』、『cocoon』と、1文字ずつ増えていくように順序立ててたんですね。『CYCLE』が延期になって、その順序も崩れてるんですけど、『cocoon』を実現するに向けて、このメンバーで何かを立ち上げていけないかってことを考えてるんです。それで最近、『B』とか『C』にまつわるタイトルのことを――それも、沖縄にまつわるタイトルのことを――考えていて。たとえば『bayside』とか、『coralreef』とか、『coastline』とかね。このタイトルはまだ決定じゃないし、戦争っていう時代からいったん離れてもいいんだけど、沖縄のランドスケープのことを考えながら、たとえば『bayside』って言葉が今の風景だとどこに当てはまるのか、あの時代にはどういう響きを持っていたのか、考える企画を立ち上げていきたいと思ってます」

「沖縄の海」と聞けば、
青い海と白い砂浜を反射的に思い浮かべてしまうけれど、
当然ながら場所ごとに表情は異なっている

たとえばだけど――そう前置きした上で、藤田くんはいくつかのアイデアを皆に語ってゆく。出演者のうちの何人かで『coastline』って公演を来年あたりにやってみてもいいかもしれないし、公演にまで至らなくても、WEBサイトを立ち上げて、そこに映像作品を載せてみたり、原田郁子さんと一緒に録音した音源を載せてみたり、皆が作業しているところを今日さんにスケッチしてもらったり、そういうことはできるんじゃないか、と。

「それで、最終的には『C』を超えたいと思ってるんだよね」と藤田くんはつづける。「ぼくが昔から考えてきた『daydream』ってタイトルがあって、これは白昼夢って意味なんだけど、ここに向かっていきたいと思っています。初演の『cocoon』のときから考えていたのは、たとえばガマの中にいて、目の前で人が死んでいるんだけど、『これは夢を見ているだけで、私は実はここにいないんだ』と思っていたかもしれなくて。繭の中で眠りながら悪夢を見ているイメージが、今日さんの中にもあったし、僕の中にもあったんですね。だから、沖縄のいろんなランドスケープのことを考えて、最終的に『daydream』ってタイトルに辿り着くことができたら、初演や再演とは違う強度の作品として『cocoon』を描けるんじゃないかと思っています」

思い出されるのは、いつだか沖縄を訪れたとき、藤田くんや青柳さんと一緒に訪れた海だった。

その海は入り江のようになっていた。ちょうど引き潮の時間らしく、ゴツゴツとした岩肌が露わになっていたけれど、ところどころに潮だまりがあり、貝が蠢いていた。ここはきっと、潮の満ち引きが何百年と繰り返されるなかで、少し入り江のように変形したのだろう。この風景にも、かつて戦争が影を落としていたのだろうか?

『cocoon』がモチーフとするのは、75年前に沖縄で行われた地上戦だ。

ただ、『cocoon』という作品を想像することは、75年前に思いを巡らせるだけでなく、10年前の、100年前の、1万年前の姿を想像することにもつながっているはずだ。そうだとすれば、2022年の夏に上演を目指すのだとしても、時間は足りないくらいだろう。『cocoon』が上演されるはずだった2020年の夏から、2022年の夏に向けて。皆がどんな時間を過ごすのか、見届けたいと思っている。


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橋本倫史

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