新連載 岩井秀人「ひきこもり入門」【第1回後編】出たくなるときを待つしかない

構成=小沼 理 撮影=平岩 享
編集=森山裕之


作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごした。
のちに外に出て、演劇を始めると自らの体験をもとに作品にしてきた。
昨年、人生何度目かのひきこもり期間を経験した。あれはなんだったのか。そしてなぜ、また外に出ることになったのか。
自分は「演劇ではなく、人生そのものを扱っている」という岩井が、自身の「ひきこもり」体験について初めて徹底的に語り尽くす連載第1回後編。

44歳、人生何度目かの「ひきこもり」に

16歳から20歳までの4年間をはじめ、過去に何度かひきこもった。最近では昨年、2019年の44歳、春の数カ月。

その期間は仕事もほとんど断って、ゲームをしたりYouTubeを観たりして過ごしていた。

16歳のころに比べると焦りはなかった。こういう状態になったのは初めてではないし。自称「ひきこもり有段者」として、こういうときの過ごし方はよくわかっているつもりだ。「外に出ない」「出たくない」という自分を責めない。無理に外に出ることを考えず、「出よう」という気持ちが湧き上がってくるのを待つのが一番なのだ。

2019年、僕はどうしてひきこもったのか。

こもるまでの1年間がとにかくハードだった。まず、1月に小さな稽古と本番があり、2月から3月にかけてハイバイで『ヒッキー・ソトニデテミターノ』の全国公演を行った。2012年の初演ではひきこもりの「登美男」を吹越満さんに演じてもらったが、今回は僕自身が主人公を演じることで、より生々しいものになったし、出演しながらの演出はエネルギーを使った。

そのあとすぐ、「さいたまゴールド・シアター」という平均年齢80歳近い劇団で『ワレワレのモロモロ』の稽古。この『ワレワレのモロモロ』は「出演者が自分の身に起きたことを書き、出演する」スタイルの演劇である。僕自身が自分の体験をもとにして作品を作りつづけているので、それをみんなにもやってもらおうと始めたものだ。

岩井秀人 構成・演出『ワレワレのモロモロ ゴールド・シアター2018春』(2018年5月)撮影=宮川舞子

『ワレワレのモロモロ』では、それぞれの台本の元ネタを決めるため、車座になって参加者それぞれの身に起きた事件や、理不尽な目に遭った話をしてもらう。僕が、父が死んだ話をすると、「じゃあ、死ネタつながりで……」と話し始める人もいたりして、それぞれの人生を元に作品を作っていく。普段の『モロモロ』は若い人が多いのだが、さいたまゴールド・シアターでは参加者の年齢層的に、戦時中のことや原爆体験など、ヘビーなエピソードが多かったが、それ以上に「ナイーブな題材を持った、我の強い人たち」が多く、精神的に消耗する戦いを強いられた。凄まじくいい経験にはなったが。

その年の秋から冬には、フランスの国立演劇センター、ジュヌビリエ劇場でも『ワレワレのモロモロ」を行っている。移民の問題や親族から性的な暴力を受けた話など、ここで扱った台本も繊細かつ重みのある話で、やはり我が強い人々とその人生を表現につなげる作業は、社会性をこれでもかと使う。

岩井秀人 構成・演出『ワレワレのモロモロ ジュヌビリエ編』(C)KOS-CREA(写真提供:国際交流基金)

さいたまゴールド・シアターやジュヌビリエには、役者として自分の体験を人前で演じることに腹を決めている参加者が多かったが、だからといって、じゃあその内容をそのまま舞台上でやりますね、というわけにはいかない(暴力・性暴力などは特に)。話者の個人的な経験を演劇に変換していくときには丁寧な取り扱いが必要で、本人が過剰に傷つかないように、観客にとって「こんなひどい目に遭っています」と不幸自慢と受け取られてしまわないような注意も必要だ。一個人のことを一個人のこととして、ただ舞台と客席の間に置くように。そうしてシンプルにしていくことに、時間と労力を使う作業が続く。これもまた社会性を爆発的に働かせつづけないとできないことで、これまでになく疲弊する経験でもあった。自分で台本に書いておきながらも、本番直前に泣き出し「もうできない!」と言った次の日に「私はこの作品をやるためにこの企画に参加したんだ!」と怒り出す参加者もいて、カウンセリングのような側面も強かった。

生涯かけて恨んでいた父を自分で演じた

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